お騒がせ会見 猫の日編−1
●猫の日の話
「一日限定チームアップ企画…?」
「あぁ。ぜひ圧気君にやってもらいたいんだ」
インゲニウム事務所にて、飯田のデスクで渡された書類を見て、応利は眉を寄せた。
例によってゴシック体のフォントで書かれたタイトルと、いら○と屋の画像がダサい配置でダサいサイズによって散りばめられている。文責はインゲニウム。
「良くない…これは良くない流れだ…」
「どうかしたかい?」
「…とりあえず話は聞く」
一度経験したことがある流れに応利は警戒した。しかし上司でもある飯田の話はとりあえず聞くべきだろう。もしかしたらとても実りのある企画かもしれない。メガネを割るかどうか決めるのはそのあとでいいだろう。
「ありがとう。今年、実はワイルド・ワイルド・プッシーキャッツが結成20周年を迎えるんだ」
「そうなんだ」
通称ワイプシの4人、プロヒーロー・マンダレイ、ピクシーボブ、ラグドール、虎によるチームだ。高1のときに合宿で世話になっている。
その年に起きた神野事件によってラグドールは個性を失ってしまったが、今もワイプシとして活動はしている。
「彼女たちの20周年に合わせて、一日限定でインゲニウム事務所もチームアップに参加することにしたんだ。発案自体はワイプシの方々で、チームアップという形式での活動を色々と伝授してくれるらしい。もちろん、世間への広報も兼ねている」
「おお、わりとまとも」
企画自体はワイプシの発案らしいし、その目的も実利がある。これならメガネは犠牲にならずに済むだろう。
「そこで、4人のヒーローがチームアップして、ワイプシをイメージした猫を模した格好になってもらう」
「…は?猫?」
「来たる2月22日は猫の日だろう、それに20周年という数字も加わるんだ、2が4つあってちょうどいい」
「はぁ…」
理屈は分かる。猫をイメージしたワイプシであるため、猫の格好というのは、猫の日と合わせて考えれば納得はいく。だからといって猫の格好とは。
以前のサンタを思い出して、応利はだんだんと飯田のメガネに憎しみを感じ始める。
「ちなみにメンバーは…」
「緑谷君、爆豪君、轟君と君だ!」
そして尊いメガネは犠牲になった。
***
2月22日、インゲニウム事務所には、応利と爆豪、緑谷、轟、そしてワイプシの4人が集まった。げんなりとした顔なのは応利だけでなく、爆豪もそうだった。轟は無表情、緑谷は張り切っている。
ワイプシはいつもの猫を主張しまくる恰好をしている。
一方で応利たちは、個性に合わせたコスチュームを変えるわけにもいかないので、普段のコスチューム姿に加えて猫系の小物をつけていた。共通しているのは、猫の手を模したグローブと尻尾、猫耳、ブーツである。ブーツの淵には猫の毛のようなふさふさがついている。
応利のグローブは普段のメリケンサックがついており、ちゃんと戦えるようにはなっている。
尻尾はそれぞれ、爆豪はシャム猫、轟は三毛猫、緑谷はキジトラ、応利は茶虎をイメージした仕様である。猫耳はそれぞれの髪の色に合わせていた。
「可愛いじゃない、似合ってるわよ」
マンダレイはくすくすと笑いながら4人を見渡す。ピクシーボブも「ねこねこねこ」と独特の笑い方をした。
「いやぁ〜、唾つけといた甲斐あったわぁ〜」
「あちきはスカートでもいいと思ったけどね」
「男のスカートはさすがに見苦しいだろう」
虎にお前が言うのかと思わないでもない4人である。
それにしても、と応利は改めてなぜ自分なのか疑問だった。
「チームアップなら俺じゃなくて飯田だろ…」
「あら、事実上あなたと飯田君の事務所みたいなものじゃない」
それを聞いたマンダレイが言うと、ピクシーボブも真面目な顔で頷いた。
「あんたも独立したがらないみたいだけど、あんたのもとで働きたい相棒候補はたくさんいんのよ。次代を育てるって意味でも、ちゃんと考えないと。逃げてちゃダメ」
「うっ……」
かつて指導されたからだろう、ワイプシに言われると言い返せない。それに正論でもあった。
相棒を率いて独立するなど応利は自分には荷が重いと思っていたが、そうやってずるずると考えずにずっといるわけにはいかない。やりたくないから、なんて理由は怠慢でしかない。飯田が応利にこの役をやらせたのは、そういう意図もあるのだろう。
「ま、一番の理由は一番話題性があって美味しいからだけどね」
しかしピクシーボブは最後にそんなことを言って、また笑った。したたかすぎる女性たちに、応利はもう言い返す気も起きなかった。