前門の吸血鬼 後門の人狼−2


切島は華麗に勝利を収めると、ラストゲームにして応利が負ける結果となった。


「嘘だろ…」


「よくやった切島!女子じゃねぇのは残念だがイケメンの残念な姿が見れるのは溜飲が下がるってもんだぜ!」


そんな峰田の言葉がとてもむかつく。ルーレットが回りだすと、もうどうにでもなれという気持ちになった。なぜかつまらなさそうにしていた轟と爆豪が立ち上がって近くに来ている。


「おい早くルーレット回せや」


なんと爆豪がそんなことを言う始末で、突然積極的姿勢になった爆豪に疑問符を浮かべつつ、八百万はルーレットを回した。


「ええと…ワイプシの格好で、罰ゲームは物真似、ですわ」

「はぁあ!?」

「ぶはっ、マジか!!」


そして最後の最後にとんでもないものが来たことで、男子たちの噴き出す音が満ちる。


「誰だこんなもん入れたやつ!ハロウィン関係ねぇじゃん!!」

「俺が女子用に入れた」

「峰田月曜殺す」

「ひえっ…」


どこまでも女子本位だった峰田のせいでとんでもない流れ弾を食らってしまった。本気の殺意を向けて、次回の演習で殺す宣言をしてやってから、応利は八百万に渡された衣装に着替えることになった。ちなみに着替えるカーテンのついたブースが設けられている。八百万の全面的な協賛あってのことである。


「いや、よくやったぞ峰田」

「轟君…」


すると轟は真顔で峰田を褒め、隣の緑谷ですら引いていた。爆豪といい、いきなりウキウキとし始めたクラスのツートップが気持ち悪いことこの上ない。

応利は長引かせるわけにもいかないと、ブースに入ってワイプシ風の服に着替える。ノースリーブで腹の出るチアガールのような上着と、スカートに白いニーハイ。そして大きな猫の手のグローブと猫耳。完全に女装だ。死にたいとしか言えない。
腕も足もすーすーとするのを我慢してカーテンを開けると、女子の歓声と男子の笑い声がどっと響いた。怒りに震える。爆豪の気持ちが良く分かった。


「物真似は当然ワイプシのあれだろ」

「頑張れー」


上鳴がにやにやと言い、麗日がうららかに声援を送る。敵しかいないのかこのクラスは。
だが恥ずかしがってやっても良くない。こういうのは振り切るに限る。応利はなぜか覚えていた合宿でのマンダレイとピクシーボブの2人のバージョンでやることにした。


「き、煌めく眼でロックオン!キュートにキャットにす、スティンガー!ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ…!!」


しかし途中でどうしても羞恥を押さえられず、顔を赤くしながら目線も下がり気味になってしまった。なんとか招き猫のようなポーズで決めたが、再度死にたい、と内心で呟いた。
男子も女子も大うけだったのが救いだが、なぜか無言かつ真顔でこちらをガン見してくるヤツらがいた。轟と爆豪である。

クラスがよくやったと褒める言葉を投げかけながら笑う中、2人はおもむろにズンズンと近づいてくる。それに気づいたクラス連中もそちらを注視した。

吸血鬼の姿で髪をオールバックにした轟、不良のような服装で首輪をし、狼の耳と尻尾を生やした爆豪。どちらも普通に格好いい。
その2人が応利の前に立っている。何事かと無言になるクラス。そして、2人は示し合わせたかのように声を揃えて言った。


「「トリックオアトリート」」

「……えっ、」

「おらはよ菓子出せや」

「それとも持ってないか?」


持っているわけがない。先ほど着替えたばかりなのだから。分かり切ったことを確認した2人は、やはり揃えたようにニヤリとした。


「お菓子がないなら、イタズラするしかないな」

「そういうルールだもんなぁ?ハロウィンってヤツはよぉ…」

「はぁ!?何言って、」


突然本来のハロウィンの趣旨を口にした2人に後ずさる。この2人からイタズラと聞くと本当にヤバい気がするのだ。
だが轟はさっと応利の前に立って肩を掴み、爆豪は後ろに回ってむき出しの応利の腹に手を回した。


「ちょ、え、何してんだ、」

「ハロウィンのイタズラ。俺は吸血鬼だから血ィ吸わねぇと」

「俺は人狼だから噛みつくもんだよなぁ」

「はぁあ!?っざけんな離れ、」


本当にまずいと離れようと身をよじるが、到底2人に力で適うはずもなく。
轟は右肩に、爆豪は左肩にそれぞれ服をずらして噛みついてきたのである。2人とも牙などはつけていないが、歯を立てられる鈍い痛みと、ぞわぞわとする感じが走って「ひぁっ」と小さく声が出てしまった。

さらに轟は噛んだあと、そこから首筋にかけて舐め上げ、爆豪は少し強めに噛んだために跡がついたところをべろりと舐めた。生暖かいものが肩や首筋の敏感なところを這うものだから、思わず応利は「んん、」とくぐもった声を上げて2人の腕を制止するように掴んだ。
だがそれは弱弱しく、むしろ2人には興奮材料に過ぎなかったようで。


「はぁ…可愛いな、応利」

「このくそかわキティちゃんは俺が送り狼してやるから、てめぇらはさっさと散れ」


轟は恍惚として応利をA組連中から隠すように抱き締め、爆豪は応利の腰を掴んで離さずに呆然とするA組にそう不敵に言った。

そして応利は前の吸血鬼と後ろの狼に挟まれ、部屋に送られた。


そのあとどうなったのかなど、言うまでもない。


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