此処にましませ 悪霊の駅−1
●此処にましませ2話
ホラーテイスト強めてるつもりです
朝起きたら夢だった、なんてことになっていないかという淡い期待は「早く起きろや」という低い声に起こされたことで速攻で打ち砕かれた。
「…夢じゃない」
「夢じゃねぇわ」
呆れたようにする勝己に見下ろされ、布団から起き上がった応利は昨日のことが現実だったのだと再認識する。
寝起きはいい方なのですぐに覚醒すると、勝己が黒いエプロンをつけた姿なのに気づく。
「…朝っぱらから上裸エプロンはきつい」
「うるせぇはよ顔洗え!」
逞しい上体を晒す格好の勝己がエプロンをするとそういうプレイみたいで視界に良くない。勝己に殴られそうな気配を察した応利は言われるがまま洗面台で顔を荒い、いい匂いがする居間に入った。
ちゃぶ台には和食が並んでいて、すでに焦凍が席について白飯を食べているところだった。
「おはよう応利」
「…はよ、焦凍…え、状況がつかめない。勝己が作ってくれたの?」
「あぁ、台所借りたぞ」
「それは構わないけど…うわ、めっちゃ美味しそう…」
すぐに用意された席について、湯気を立てる味噌汁を啜る。途端に口内に広がる繊細で奥深い出汁の味と程よい味噌の風味が、脳をびしりと刺激した。
「うっま!うわなにこれめっちゃ美味しい!」
「ったりめーだろが」
「うわぁ夢じゃなくてよかった!」
「煩悩まみれだな応利」
「煩悩祓うの仏教だからいいんですー」
焦凍につっこまれるが気にせず焼き鮭にも箸を伸ばす。この神使なんでもできるなと朝からテンションも高く思う。
「…てか焦凍はなんで食ってんの?神使って人のご飯食べるもん?」
「いや?なくても生きていけるが、応利に変なモン作ってねぇか毒味しねぇとって思ってな」
「毒味で一汁三菜しっかり食ってんじゃねぇよ、お稲荷さんでも食ってろ」
平然とのたまう焦凍に、勝己が盆で頭をがつんと殴る。あの盆にそれほどの攻撃力があるのか、と思うほど痛そうな音がしたが、焦凍は頭を摩りながらあまり効いていなさそうだった。
ともすれば特筆するべきものではないような朝の光景だが、2人のふさふさとした尻尾を見れば、これが異常だと分かる。自身の首筋から鎖骨にかけて見える唐草模様もそうだ。
「…あのさ、俺、これからどうするべき?昨日あんなことあったけど…」
応利の大きすぎる霊力を狙う化け物たちがやってくると言われたのだ、結界のあるこの神社から出ることすらできなくなるのだろうか。それに、父はどうなるのか。
「特にどうにかする必要はねぇぞ。俺や犬っころがついてるからな」
「犬っころに飯作ってもらっといてよく言えたモンだなクソが……いいか応利、ヤツらは基本的に昼間の明るいところや日光のあたるところにはいねぇ。日が暮れてから夜明けまでがヤツらの時間だ。お前の父親は契約が切れた反動でしばらく入院だろうが、命に別状はまったくねぇ」
再び焦凍をがつんと盆で殴ってから、勝己は応利が気になっていたことに正確に答えてくれた。今までの生活リズムと照らし合わせても、少し帰る時間を早めればいいだけだろう。
一応父にも契約のことを話すべきだろうし、今日にでも病院へ行こう、と予定を立てて、応利は「ごちそうさま」と手を合わせて立ち上がった。