此処にましませ 悪霊の駅−2
「…で、なんでお前らはついてきてんの」
学校へ向かう道すがら、応利は後ろでふよふよと浮いている2人にあまり目はやらずに小声で言った。紅葉している道端の木を見ていた焦凍は「お、」とこちらに意識を向ける。
「そりゃ、応利が心配だからに決まってんだろ。なんかあったときのためにな」
一方で、ガードレールに沿って空中を進む勝己に目をやると、くい、と行儀悪く焦凍に親指を向けた。
「こいつ見張るため」
「うるさいぞレトリバー」
「てめぇはいつになったら狼だって理解できんだ?」
当然他人には見えない存在である2人、道行く人に怪しまれないように応利は気をつけながら、疑問に思ったことを聞いてみた。
「なんで焦凍はそんな勝己に突っかかんの?」
「恋敵に優しくする男はいねぇだろ。それに、こいつは所詮、東国の山犬信仰や地域慣習が複合して信仰になっただけの神の神使、対して俺は全土の五穀豊穣を司る神の神使だからな」
「とか言ってっけど、神使の時点で立場は一緒だかんな。なんなら、応利の神社の主たる信仰は俺の方であってこいつのはサブ扱い、だからお前の力を引き出す意味においては俺の方が優位だ」
「あぁ、燃費が云々ってヤツね」
応利の神社、多摩御峰神社の主な信仰は大口真神だ。その神使である勝己の方が、応利の力を使うにあたってのコスパはいいらしい。
「お前の力は燃料にすぎねぇ、自分で使うことはできねぇから、力の利用には媒介として俺たちが必要になんだ」
「へぇ」
いつの間にか民家の塀の上にいる猫と目を合わせている焦凍は、少し離れたところにいる。勝己が色々と教えてくれる間にも距離が開いたが、あのマイペースは構わない方がいいというのは応利も勝己もよく分かっていることだった。
***
放課後、病院へ向かうと、父が入院する病室には見慣れない者がいた。スーツ姿の男が1人、ベッドに座る父と深刻そうに話している。
「…父さん?」
「応利…」
部屋に入ると父と男は揃って振り向いた。
「息子さんですか?」
「ええ、はい…でも彼にはまだ何も教えていません、何かできるわけでもありませんよ」
「そう、ですか…」
項垂れる男。なんだろう、と思っていると、焦凍は「最近依頼してきたヤツだ。祓い屋業の方な」と教えてくれた。そしてどうやら、父はもう焦凍も勝己も見えないらしい。
なるほど、依頼していたが父は力がなくなり、依頼主が途方に暮れているところということだ。それならばちょうどいい。
「父さん、話聞いたよ…焦凍から」
「なっ…!?見えたのか!?」
一言そう言うと、父は血相を変えて飛び上がった。温厚な人なので、そんな様子に応利も男も驚く。
「まさか、契約を…!?」
「うん、じゃないと父さんも危なかったし、俺も危なかったから。…こんにちは、圧気応利と申します。よければお話を伺っても?」
「ちょ、待ちなさい応利、何も同じことをする必要は…っ!」
父は慌てたが、男はパッと顔を輝かせた。「本当ですか!」という声は、本当に参っている人が出せる必死なものだ。応利は父を制して、まずは話を聞くことにした。
もちろん、父と同じ祓い屋業をすぐにやると決めたわけではない。しかし、依頼主に対してこちらの力がなくなったので、なんて一方的すぎて不誠実だし、応利にしても自衛の手段は必要だ。様々なことを同時に考えるためにも、ここで依頼主から話を聞いておきたかった。
応利は椅子を男に差し出し、自分はベッドに座る。
勝己は日が傾き始めた窓の外を見つめ、焦凍は応利の後ろで流れを見守っていた。