初デート−3
食べ終わると、少し休憩してから勝己がまた先導する。会計はもちろん個別で、自分の分は自分で払った。食べ終わるタイミングがほぼ一緒だったのが勝己との胃袋の差を感じる。
そして勝己に連れられてやってきたのは映画館だった。かなり混み合っていて、券売機やカウンターには多くの人が並んでいる。
「映画見んの?」
「あぁ。ほら、」
そう言ってひらりと無造作に渡されたのは前売り券だった。すでに発券済みとはさすがの手際である。しかも、映画は応利が見たいと言っていたものだった。ペットの犬と飼い主の少年との絆を描いたノンフィクションの映画だ。そういう動物ものが好きな応利としては外せないものだったので、予告がテレビで始まってからずっと見たいと言っていたのだ。
「これ!『ぼくらのワン!ダーランド』!見たかったやつ!」
「せいぜい泣いたとき用に記念タオルでも買っとけ」
「泣かないわ!トイレ行ってくる」
ハッと鼻で笑いながら煽る勝己に言い返してトイレに行き、その足で2人で劇場に入る。
そして開演前のドキドキ感を紛らわすように勝己と小声で話していると、ついに映画が始まった。
結果から言うと、ボロ泣きだった。
主人公の少年は両親が不仲で、それが影響して学校でも暗い性格だといじめられ、唯一の心の拠り所がペットのゴールデンレトリバーだった。その時点で心が痛んで(なんせノンフィクションという事前情報があった)目が潤んでいたが、そのペットが離れていく家族の心を一つにして、それがきっかけで少年も明るくなり友達にも恵まれるようになったところで、ペットの犬に病気が見つかる。家族の心を繋ぎとめてくれた犬を救けようと家族は病院を転々として情報を集めていくのだが、その描写の間ずっと応利は勝己の手を握っていた。
左隣に座っていた勝己は飽きたのか眠そうにしていたが、その右手をしかと握りしめるとちゃんと握り返してくれた。
いったいどうなるのかとハラハラしていると、だんだん雲行きが怪しくなってくる。これはハートフル一色ではなく、まさか最後は暗い展開なのかもしれないという可能性が出てきて(やはりノンフィクションだからだ)、ホラー映画でもないのにずっと勝己の手をすがるように握っていた。
そして最後、結局治療は間に合わず、家族は最後の時間を家でともに過ごす。動けない犬の側で、思い出を振りかえるためにアルバムを開いて笑うのだが、その中で犬は息を引き取るのだ。笑いながら涙を流し、しだいに顔を歪める家族。
「あ、タオル買っとけばよかった」と後悔した瞬間、隣から少し乱暴にタオルが顔に押し当てられた。勝己はこんなことも見越していたらしい。そのタオルに顔のほとんどを覆って、ゆっくりと静かな最後のシーンを見守った。
エンドロールも終わって劇場が明るくなると、そこら中から嗚咽が響く。しかもすすり泣きとかではなく、「ひっ、ふんぅ〜、おえっ、」というわりとガチの汚い方の嗚咽だ。子供はほとんど泣いていないで眠たそうにしている反面、大人たちの本気のむせび泣きの満ちる空間である。
「いつまで泣いてんだ」
「も、泣いて、ないしっ…、!」
「だからタオル買っとけって言ったんだアホ」
そう言う勝己の声は柔らかく、タオル越しに目をこする応利の手をやんわりと止めると、優しく顔を拭ってくれた。タオルから視界が晴れて勝己を見上げると、「アホ面」とおかしそうに言われる。いつも通りの暴言は、むしろわざとだろう。あえて日常の再現をすることで応利の心の平穏を復活させようとしてくれているようだ。
「なんで泣かないんだよむしろ…!お前はもう死んでいる、心が!」
「おうおうそんな言うなら泣かせてやるよ後でたっぷりなァ!」
それに応利も乗って、普段のような応酬をする。やはり、そんなやり取りにどこかホッとするのを感じた。