PAR AVION−9




「応利、アナウンスしてくれるか。到着地についてと、もう一度安全姿勢について。機体が結構ボロボロだから、念のために安全姿勢を取ってもらう」

「分かった」


管制官とやり取りする爆豪の後ろで、轟に言われて応利は立ち上がる。爆豪も何も言わないので問題ない対応なのだろう。普段はいろいろと言い合う2人だが、なんだかんた実力は認め合っているらしい。
コクピットを出てファーストクラスのギャレーに戻ると、座席についてベルトをしてからアナウンスを開始する。


「皆様、これより当機は高知県の○○空港へ緊急着陸を行います。システムは無事に復旧しておりますので、通常の着陸となります、ご安心ください。しかしながら、万一に備え、安全姿勢を取っていただきます。今一度、前の座席ポケットにございます安全のしおりをご覧ください」


まだ気は抜けない。ともすれば空中分解すらありえた状況からの完全手動着陸だ、何が起こるか分からない。

やがて、飛行機は徐々に高度を下げていく。一切の自動運転システムを使っていないにも関わらず、その落下スピードは恐怖を感じるものではなかった。しかし、やはりふらつきはある。

そして、ついに機長アナウンスが入る。


『皆様、大変ご心配をおかけしておりまして申し訳ございません、機長の爆豪です。これより当機は緊急着陸を行います。合図がありましたら、安全姿勢を取ってください。Ladies and gentlemen, we are in emergency landing.』


ぶつり、とアナウンスが途切れた直後、爆豪の低くも明瞭な声が合図を告げる。


『Brace, brace, brace』


3回繰り返されるBraceもしくはBrace for impactという言葉は、衝撃に備えよという意味で、これが聞こえたら乗務員は安全姿勢の掛け声を叫ぶことになっている。


「頭を下げて!Head down!Head down!」


繰り返し機内に響き渡る鋭いクルーたちの声。一斉に乗客たちは前かがみになり、腕を前の席について安全姿勢を取る。
応利も叫びながら、機体の下降とエンジンの低下、そして近づく地面の音を感じた。心臓の音がすぐ耳元で聞こえる。

直後、車輪が滑走路に擦れる音が響き、同時にエンジンが逆噴射する轟音も聞こえてくる。何か異常なところはないかと探してしまうが、特にそんなところもなく。
むしろいつもよりも静かだったのではないかというくらい、機体は正常に停止した。


『皆様、当機は無事に着陸いたしました。これより緊急車両による機体の安全点検のあと、何もなければ通常の降機となります』


無事に着陸、その言葉を聞いた瞬間、機内中から拍手が鳴り響いた。応利は思わず、弛緩する空気とともに、肩の力がどっと抜けるのを感じた。



***



その後、様々な報告やら事情聴取やらに応じているうちに、すっかり深夜となっていた。空港の宿泊施設は乗客でいっぱいになり、職員用の部屋も空きがほとんどない。
そんな中で2人の機長は一番良い2人用の個室を使ってくれと空港スタッフに言われていたが、応利が切島たちの部屋で一緒に寝るということになると、この2人が自分たちのところを所望し、空港スタッフに引かれながらも応利は爆豪たちと同じ部屋に寝ることになった。

3人で一緒に部屋に入ると、珍しく爆豪と轟は上着をハンガーにかけるなりシャツのままベッドに飛び込んだ。もちろん違うベッドそれぞれダイブした形だが、やはり相当疲れていたようだ。当たり前だ。
きっとテレビをつければこのニュースで持ち切りなのだろうが、とてもそんなものを見る気にはなれない。

とりあえず応利は、轟のベッドの淵に遠慮がちに腰かけた。いくら2人が望んだこととは言え、疲れている2人に負担をかけたくなかったからだ。
すると轟が「応利〜」と言いながら腰に抱き付いてきて、目ざとく見つけた爆豪が起き上がって轟を睨みつけた。


「おいクソ半分野郎…!」


そんないつもの2人を見ていると、無性に応利は感情が高ぶってしまい、つい、ぽろ、と目から涙が零れ落ちた。ぎょっとした2人は驚いて固まる。


「わり…でも、なんか、助かったんだなって思ったら…安心して…俺、お前らに優しくなかったのに、もしこれで死ぬことになったら、どうしようって…」


そんな号泣というほどでもなかったが、涙ながらに言うと、轟が起き上がって後ろから抱き締めてきた。背中を温もりに包まれると、正面から爆豪が乱雑に頭を撫でてくる。


「…おめぇが保安官として乗ってたから、俺たちは落ち着いて対処できた。つか、お前がいなきゃ死んどったわ」

「爆豪の言う通りだ。つうか、お前、機内でそんなこと考えてたんだな。かわいい」


ぎゅう、と抱き締めてくる轟に、少し呆れたようにしながらも労わるように髪を漉く爆豪。
応利は、今日くらい素直にやってやるか、と口を開く。


「…俺、お前らとのフライトで良かった」

「…そーかよ」

「あーマジでかわいいな」


ぽつりと言った応利に、爆豪は照れたようにし、轟はより深く抱き付いてくる。


そうやって2人ともちゃもちゃしながら寝てしまった結果、翌朝に起こしに来たスタッフに3人で一つのベッドにいるところを見られ、しかもその真ん中で起き上がっていた応利と目が合って必死に弁解することになるのだが、それはまた別の話。


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