PAR AVION−8
応利はインカムでクルーたちから次々とフローの終了の報告を受ける。そしてすべての客室での確認が終了し、いよいよそのときがやってきた。
「爆豪、こちら圧気、安全確認終了」
『了解、これよりエンジンを停止する。クルーは席についたか』
「大丈夫」
『よし、じゃあお前もこっち来い。客室高度をこっちで直接見て、段階的に個性を解け』
「なるほど、すぐ行く」
指示された通り、応利もコクピットの収納席についてベルトを締める。酸素マスクをつけて、客室高度のモニターを見つめた。
「エンジン停止」
爆豪が言うと、徐々にエンジンの音は小さくなっていき、音だけでその活動が弱まっていくのが分かる。同時に轟はスイッチを切る。
「非常電源停止」
これでエンジン停止後、完全に停電する。圧力調整ができる応利がいなければできない荒業だ。
なにせここは高度40000フィート、12000メートルである。エベレストと富士山を重ねたくらい高い位置にいるのだ。
爆豪と轟は様々なデータを声に出しながら、無数に並ぶスイッチやハンドルを操作していく。
やがてエンジンの音はどんどん下がり、やがて、プシュウという音とともに停止した。数瞬後、ふっと室内は暗くなる。客室からは悲鳴が上がった。
ここから飛行機は滑空を始める。エンジンがすべて止まっても、飛行機には揚力がかかり続けるため、しばらく滑空が可能なのだ。グライダーのような状態だ。
機体の重さなどにもよるが、だいたい20分間は滑空できるとも言われる。
一方で、滑空状態だと一般に毎分2000フィート落下する。40000フィートからだと、15分で先ほどの警報が鳴った客室高度と実際の高度が一緒になる。あくまで理論の話であり、実際はもっと早い。
そして、そこから5分で墜落する。
暗くなった瞬間に爆豪はエンジンを再起動を開始しており、5分ほどして再起動は成功する。
そこからメインのブースターが回り、電力の供給が始まるまでどれくらいかかるのかは分からない。
滑空している間、どんどん揺れがひどくなっていき、客室からの悲鳴が断続的に聞こえる。まだ、これくらいの揺れの中でランディングすることもあるので、爆豪からの安全姿勢の合図はない。
横の窓から見える水平線はどんどん近づいてきており、さすがに恐怖感がある。
そしてついに、明かりが復旧した。電源が来たため、爆豪は半ば叫ぶように言った。
「上げろ!上げ過ぎんなよ!」
「分かってる!」
轟も大きな声で返す。ついで2人は操縦桿を持ち上げる、連結しているので、2人の力で分散されるはずなのに、相当重そうにしていた。
あまり上げ過ぎると機体が崩壊するので、慎重にならなければならない。
すぐに異常接近を知らせる警報が鳴り始め、爆豪と轟は歯を食いしばって全力で操縦桿を握った。
機体は復活したエンジンによって速度が上がり、機体が上がることで下に押し付けられるような重力を感じる。
そこへ、ざざっと無線の音が入る。とっさに轟が回線を合わせると、管制塔からの応答を求める通信だった。
「っ、メーデーメーデーメーデー!こちらTAS625便、現在手動によりエンジン再起動、そちらに着陸は可能か…!」
『こちら○○空港、可能だ、すぐに滑走路をすべて閉鎖する。詳しい状況の説明は可能か』
警報は止まり、なんとか安全な高度まで到達したらしい。轟が調節しながら、機長たる爆豪は管制官とやり取りをして方針を決める。
そのあたりで計器類は復旧し、高度がきちんと分かったため、応利は個性を解いた。これなら外と同じ気圧でも平気だ。