PAR AVION 酩酊メーデー−3


そうしてしばらく飲んでいると、突然、応利が爆豪に向かって体を傾けた。爆豪は待ってましたとばかりにカップを地面に置いて受け止める。
恐らく2人が酔っぱらう応利の近くを離れようとしないのは、「酔っちゃった…」みたいな応利からの接触を期待しているからだろう。
だが応利はそこまで可愛らしい酔い方をしていないようだ。


「東京タワー、こちらTAS203便、着陸許可を求む〜」


ふらふらとしながら応利は楽し気にそんなことを爆豪に向かって言った。普通は英語だが、管制塔との交信のつもりらしい。東京タワーは東京空港の管制塔を示す。


「……こちら東京タワー、着陸を許可する」

「ぶは、爆豪ノった!」


それに対して爆豪は意外にもノリ良く対応してみせた。切島は噴き出す。
応利は上機嫌に体を傾けると、爆豪にどさりともたれる。爆豪はそれを抱き留めて、自身の胸板に応利を抱き込んだ。轟からは盛大な舌打ちが一つ。


「ふは、どーだったよ爆豪、俺のランディング」

「クソだな」

「うっぜー」


けらけらと笑う応利。それに嫉妬したのか、今度は轟が動いた。
轟は応利の近くに移動すると、徐々に応利に顔を近づける。


「ボーディングブリッジ、ドッキングするぞ」


ボーディングブリッジとは、ターミナルと飛行機を繋ぐ可動式の廊下のことだ。それを機体に接続することをドッキングという。
今、轟は明らかに搭乗口を唇に設定している。

だがそれは爆豪に阻まれた。近づく轟の頭を鷲掴んで止めてしまう。


「悪いが俺の空港はタラップ式だ」


地方空港やリゾート空港などは、可動式の階段だけを接続するタラップ式であることが多い。爆豪はボーディングブリッジなどと言って迫る轟に用語で返して見せたわけだ。轟はむっとするが、すぐにバカにしたように笑う。


「器のちいせぇ空港だな。実際のお前とそっくりだ」

「あ?おい応利、おめぇはタラップとボーディングブリッジどっちが好きなんだ」

「えー、タラップのが「着いたぞー!」って感じがしてテンション上がる」

「ほらな」

「でも普通にボーディングブリッジのが楽」

「よし、今ドッキングしてやる」


爆豪と轟がぐぐ、と応利に迫ろうと熾烈なバトルをする。一方で応利はそんな2人を笑いながらまだ酒を飲もうとしていた。
それに気づいた轟が、そろそろやめさせようと判断したのか、爆豪との押し合いをやめて応利の腕を掴んだ。


「おい、もうやめとけ」

「はぁ〜?」

「俺がバッテリーに蓄電してやるから、ほら、尾翼出せ」

「なんつー下ネタだ…」


思わず切島はドン引きした。轟が言うバッテリーとは、飛行機の後方につけられた蓄電池のことで、尾翼という言葉が今この状況で指すものは明らかだ。


「あ?てめぇのお粗末なノースギアは格納しろや」

「俺のは管制塔だ。ギアはお前だろ、良かったな、お前なら出しっぱなしでテイクオフしても問題ねぇ」

「ざけんな、応利の中にランディングすんのは俺なんだよ、舐めフ(舐めたフライト)野郎は引っ込んでろ」


下ネタが飛び交う2人に、ますます切島はドン引きである。ここに女子がいなくてよかった。ちなみにギアとは車輪のことだ。前方のギアをノースギアという。
一方の応利は、2人の会話にげらげらと笑っていた。こいつも大概下ネタが嫌いではないのだ。


「あはは、ウケる。駐機スポットじゃん、Gスポットだけに」

「応利…」


そして下ネタにノった応利。駐機スポットは飛行機が止まっているターミナル付近のスペースのことだ。
轟たちはノった応利になぜか感極まったようにしていた。こいつらも酔っているらしい。

その直後、ついに轟が応利に口づけた。もろに見てしまった切島は思わず「うわ」と言ってしまう。
「てんめぇ!!」とキレた爆豪も轟を押しのけて応利にキスをぶちかます。応利は気にせず笑っている。カオスすぎる3人の様子に、さすがの切島も手に負えないとばかりに首を横に振るしかなかった。




翌日、素面に戻った3人がそれぞれの家で恥ずかしさのあまり死にたくなったのは言うまでもない。


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