食い倒れヒーロー−1
●ファットガム→主←天喰
関西地方の大都市、江洲羽市。その中心部に事務所を構えて活動するプロヒーロー・ファットガムの相棒、それが応利の肩書きだった。
出身は東京で、雄英のヒーロー科を出てここで働いている。年齢は今年で23歳、かれこれ5年はここで働いており、優秀な同期の中には独立した者もいるが、応利はとりあえず今の生活に満足している。
「たっだいまぁ〜、帰ったで〜」
「おかえりなさい、ファットガム」
「なんや応利、2人のときは名前て何べん言うたら分かんねん」
ファットガム、こと豊満太志郎はそう言ってにやにやとする。200を超える身長と横に広がる巨体は、ヒーローとして個性を使っていないときの姿である。BMIヒーローとはよく言ったものだ。
「はいはい、太志郎さん。んで、今日もまるっとしてんなら何もなかったわけね」
「おー、平和やったでぇ。皆俺に恐れなしとるんやろ」
「食べ歩きするだけの簡単なお仕事だったと」
「そうとも言う〜」
「トイレットペーパー買った?」
「アッ……」
二コッとした顔を崩さない太志郎だが、応利も笑顔で尋ねると途端に顔を強張らせた。事務所のトイレットペーパーが切れてしまっているので買い出しもついでに頼んでいたのだ。ヒーロー飽和社会、特に都市部のここは事件発生時に他のヒーローが出ることも多く、再開発で路線価が上昇してこの辺りの家賃も高い。事務所の維持にかかるコストを少しでも節約するのに、定期便で郵送してもらうことは控えていた。
「た、たこ焼きあるで…?」
「お・れ・はトイレットペーパーって言ったんだけど?たこ焼き置いてもう一度行ってこい」
「上司に対してなんて口や…しかもたこ焼きは食うんかい…」
「トイレットペーパーも買ってこれない上司なんて俺にはいないし。あとここのたこ焼き好きだから」
「うん、ここの好きなんは知っとるよ!せやしファットさん買って来てん!」
何としても買いに行くのを免れようとする上司に、再度応利は笑顔を向けた。
「毎秒100
hPaずつ気圧が下がりまーす、いーち、」
「くぅ!遠距離の自由操作型強個性め!心強いけど今は恨めしいわぁ!」
そう泣き言を漏らした太志郎はすぐに事務所を出て行った。ちなみに、その先で敵に出くわして事件を解決したらまた忘れたことだけ記しておく。
***
応利はこの事務所で経理・経営に関することの大半をやっていた。もともとそういうことが好きではない太志郎に代わってやるうちに、経営科顔負けの手腕を発揮するようになったのである。
人事やほかの事務所との渉外などを太志郎はやっているが、そればかりは応利がやるわけにはいかない。それでも仕事量が多いので、応利は常にキャパギリギリの生活をしている。
そんな中、太志郎は雄英に対してヒーローインターンの募集をしたらしい。恒例の事後報告に、捨てようと思っていたティッシュ箱をその体に沈ませた。「ゴミ箱やないで俺は!」「知ってるよ、分別もできないじゃん」「ひどい!」という会話はもう記憶の遠いところにある。
そうしてやって来たのは、応利の6こ下にあたる代、今2年生の男子生徒だった。
「あ、天喰環です…よ、よろしくお願いします…ヒーロー名はサンイーターです、おこがましくて申し訳ないです…」
「こいつごっつ気ィ弱いねんけど実力は確かやってスナイプが言うとったわ」
太志郎の隣だと、内気そうな雰囲気も相まって小さく見える。それでも170センチ後半であるので、応利より5センチは背が高そうだ。体格も悪くない。報告書にあった個性では近接主体で中遠距離攻撃も可能ということであったため、見た目以上にきちんと体は作ってありそうだ。気やせするタイプだろう。
今年の夏に仮免を取ってインターンに来ているという。
「雄英なら俺の後輩だね、よろしく。俺は圧気応利、ヒーロー名はパスカル」
「し、知ってます。体育祭、見てました…ずっと3位以内、3年で1位でしたよね…」
「そうそう、知っててくれたんだ。ありがとな」
人と話すのが得意ではなさそうな環だが、精いっぱい伝えようとしてくれているのが分かった。こういうことを発現すること自体避けたかったはずだが、どうしても伝えたかったのだろう。その内容が応利の成績だったので、いい子じゃないかと太志郎の判断を珍しく褒めたくなった。ちなみに応利は一応部下である。