食い倒れヒーロー−2
太志郎の判断は正しかった、それは確かに実力の上ではそうだったと応利は今でも思っている。だがこれは誤算だった。
「応利さん、これ食べてみてくれ」
「応利!俺の食べてみぃ!」
「ちょっと待って、なんで」
江洲羽市の繁華街で、夜のパトロールとして歩いていると、両隣を歩く環と太志郎からやたら食べ物を薦められる。たこ焼き、タイ焼き、はしまき、焼き鳥に串焼きに串カツ。
「そんな細くて戦えへんやろ!ほら!我慢せんと食べとき!」
「このたい焼きは中身のツナマヨが多くて最高だった。応利さんも食べるべきだ」
「うん、お前らと違って食べる必要がないし、今はパトロール中だし、そもそもさっきから薦めてくるもんが全部しょっぱいんだよ」
脂肪が多ければ多いほど個性に有利な太志郎や、食べたものを再現する個性である環と違って、そもそも応利は食べる必要はない。それに薦められる食べ物がすべて粉ものや脂っこいものばかりだ。
「俺は甘党なんだって言ってんだろ」
「かわいい…」
「かわええ〜、甘党な応利が今日もかわええわ、後でクレープ買ったろな」
味覚の好みが違うと主張すると、環は恍惚とそうのたまい、太志郎もにっこりとして言った。
「だいたいなんでいつも俺を挟むんだよ。間に置くな俺を。あとクレープは3丁目商店街のところな」
「隣に置きたいやん?クレープの件了解」
「応利さんの隣にいたくて…俺が隣にいても応利さんは嫌だろうけど…」
「必要性がないだろ、あと環はそれ禁止だって言った」
この2人はとにかく言う事を聞かない。何度もこうやって応利を挟む形で歩くのは鬱陶しいと言っているのにも関わらず頑なにこの位置だし、環はネガティブなことを言うのを止めない。
「必要性とかいう問題やないねんな、環」
「そう。ただそうしたいってだけ。あと俺はただ事実を述べているんだ…事実が俺の低みを表しているだけ…」
本当に聞く気がないな、と米神がひくつく。そこへ、横の通りから悲鳴が響いた。「強盗だ!」という声がネオン街にこだまする。見てみると、こちらに向けて走ってくる男たち。トータル5人。
「ちっ…お前らもあいつらもやかましいんだよ…!」
応利はちょうど良いとばかりに男たちに向けて意識を向ける。聞いているようで聞く気のない両サイドの男どもは無視である。
「
局所低気圧、375hPa」
「なっ、ファットんとこの気圧野郎!」
「パスカルや!しまっ…」
5人はこちらに気づくも、ときすでに遅し。応利の個性によって、男たち周辺の気圧は高度にして8000メートル、通称デス・ゾーンと呼ばれる人体の順応不可能高度の気圧となった。
酸素濃度は急激に下がって、通常の37%、すぐに男たちは意識を失った。気圧を元に戻すと少し風が吹く。男たちの周囲に向けて、周りから空気が一気に移動して風となるのだ。
「おお、相変わらずの強個性やな!」
「さすがパスカル!」
繁華街の野次馬たちは口々にそう囃し立てた。それに笑顔で手を振ってから、応利は振り反って太志郎を見る。
「じゃ、あとはよろしく」
「えっ、マジ!?」
「帰るよ環君」
「分かった」
警察への身柄の引き渡しを太志郎に任せると、応利は環を連れて事務所に向かう。そろそろ法定労働時間に環は引っかかるからだ。そんなミスを応利が許すわけがなかった。