正月太りは無関係−1
●ファット事務所の相棒主とファット、環
「つ、疲れた…」
1月1日の夜、世間は元日のどこか新鮮な雰囲気に満ちていて良いのだが、中には羽目を外しすぎた者が多くいるのも確かで。個性社会となった今、酔った際に個性を使ってしまう者もいるため、年末年始などヒーローにはなかった。
元日早々にそんな者たちを警察に引き渡し、市民の誘導や野次馬の解散、連続して起こる事件に走り解決という1日を過ごすことになった応利と上司である太志郎は、夜も遅い時間に事務所に帰って来た。
疲れ果ててソファーに2人して沈むと、沈黙が室内に落ちる。他の相棒は正月休みだ。
「てかなんで俺に休みないんだよファット」
ふと、なぜ自分が出勤させられているのかと気づいた応利は、隣に座る太志郎の腰に拳をぶつけた。年末年始の度重なる事件のせいで、やはり脂肪が著しく消費されて萎んでいる状態だからか、硬い体に阻まれてこちらに痛みが走った。
「今シュットしとるやろ、てか名前」
「はいはい、太志郎さん。別に俺じゃなくても良かったじゃん、日ごろ俺が過労死寸前で働いてやってんのに」
「いや〜、やっぱ応利が一番相性ええんやって、応利おらへんときも俺応利のことつい探してまうねんで」
「豊満、アウト〜」
「なんで!?」
「この時期に関西弁聞くとつい…」
太志郎は「口説いとったんに…」と落ち込むが、それくらい応利にも分かっている。疲れているので適当に返しただけだ。それに、応利が休みなしで働かされている現状にも変わりはない。
「どうせ事務所に暮らしとるんやしええやん」
「そもそもそれからして、あんたが俺に経営の仕事させてるからだろ」
「いうてもあれやろ、実家はハワイやろ?」
「………そうだけど」
そう、どうせ応利はあまりに仕事が多いので事務所の仮眠室をもはや自室にしているし、実家の家族は応利をまったく気にせずハワイで過ごしている。結局、わざわざ誰かを出勤させるより応利が出る方が速いのだ。
「あーあ、またデブと年越しして正月かぁ」
「純度100%の悪口で逆に怒りも沸かへん」
「まっ、誰もいないよりマシか」
応利はそう言ってソファーから立ち上がると伸びをする。実家には誰もいないのだから、どうせ応利は1人で年末年始を過ごしていたのだろうし、それならまだ誰かといた方がマシというものだ。
「なんかさ、年末年始ってやっぱ誰かと過ごしたいじゃん、なんとなく。太志郎さんといるの、飽きないから嫌じゃない」
「っ、応利!」
すると、太志郎はおもむろに応利のことを抱き締めて来た。後ろから抱き込まれ、すっぽりと腕に包まれる。遥かに太志郎の方が大きいため、応利の頭が太志郎の胸板あたりに来るほどの身長差だ。
「ホンマかぁええなぁ、ここでデレてくれる辺りファットさん嬉しいわぁ」
「はいはい。はぁ、にしても、萎んじゃった分また爆食いしないといけないな、太志郎さん。また経費が…」
「んん、せやったらおせち料理買うか!」
「高い、そんな金出せない」
「俺のポケットマネーやさかい平気やで!」
「マジで?」
口で言いつつこの流れを意図的に持っていったのは応利だ。いい顔して太志郎に自費でおせちを買わせる寸法だ。うまくいったことにほくそ笑みながら、応利はその腕の中で体の向きを変え、胸板にすり寄った。
「伊達巻きは甘いヤツが好きだから俺」
「分かっとるよ、あとは黒豆と田作りやろ?」
「日本酒…越野景虎……」
「しゃあないな、今年は奮発するか!」
「太志郎さーん」
実に分かりやすく鼻の下を伸ばして応利の要求に応えてくれる太志郎。吟醸の結構高い日本酒も買ってくれるらしい。酒が進むな、と内心で小躍りする応利だった。