I've got you−1


●怪盗パロ 個性社会ではある
怪盗爆豪×警察主



轟く爆発音に、応利は咄嗟に個性を使って防御した。自分の周りに0気圧の空間を作り出すことで、爆風が及ばないようにしたのだ。
この圧力と応力を操る個性をもってすれば、本来、犯罪など容易に防げるはずだった。警察の、個性を武力として使わないという制約がなければ。

雨戸ごと窓が吹き飛んだことで、豪奢な室内に月明りが差し込む。それに照らされて、スーツ姿の男が悠然と立っているのが見えた。


「かっちゃん…!」


隣で悔し気にするのはヒーロー・デクこと緑谷で、応利の幼馴染だ。そして怪盗の男もまた、2人にとっての幼馴染である。
男はフルフェイスのガスマスクをしているためまったく顔は見えないが、2人には正体が分かっている。正確には、この2人にしか、男の正体は分かっていなかった。

爆発によって倒れた他の警察たちの間を通り抜け、男は割れたガラスケースから美しく輝くトルコ石、ターコイズでできた巨大な壺を手に取った。この場で攻撃が可能なのは緑谷だけなのだが、すでに男が手に壺を持っている以上手出しができない。あの壺だけで数億円はくだらないのだ、おいそれと攻撃できなかった。

男はこちらを一瞥すると、素早くその場を後にする。緑谷が追いかけるが、すぐに男の姿は見えなくなっていた。


「…勝己…」


爆豪勝己、希代の大怪盗として世間を騒がせている、2人の幼馴染だった男である。



***



『これで6件目となる怪盗による窃盗事件。狙われたターコイズの壺は、かつて戦時中に占領地から奪われたものだったと分かりました』

『ここで週刊誌報道にある怪盗の狙いについて、盗まれた宝石の頭文字を繋げてみるとive got、手に入れたという意味の英文になるという暗号めいた説が出てきたわけですが、これについて犯罪心理学を専門にする教授にお話を伺いたいと思います』


応利はぼう、とテレビを見ながら食堂のラーメンを啜る。警視庁の食堂には多くの職員がいるが、一様に硬い表情で報道を見ていた。




最初の事件が起こったのは今から1年前、東京の宝石商が輸入した巨大なインペリアル・トパーズという宝石が盗まれたことだった。時価額にしてなんと3億円、金額の大きさから話題になった。
それだけならよくある敵犯罪なのだが、問題はそれが1年間で6件連続したことだった。

いずれも高価な宝石だったが、その価値はすべて、当時の最高額のお宝だった。しかも、犯人は犯行声明を「事前に」出すという余裕ぶり。よくある怪盗もののフィクションのようでもあったため、話題性が高く、一躍世間の注目の的となった。

しかも狙われた宝石は、すべて何かしらの後ろめたいことがあった。最初のインペリアル・トパーズはそれを見つけた原産国の地元女性が殺されているものだったし、それ以降も国際条約に反した密輸やテロ組織のマネーロンダリングに利用されていたり、業者が違法な事業を展開していたりと警察が事件に関わったことで明るみに出た犯罪は数知れず。

まるで義賊のような犯罪、完璧な犯行、典型的な犯罪予告、謎に包まれた犯人像など、刺激に飢える人々の人気を得るには十分だった。
一方で事前に予告されているのに取り逃がし続ける警察は批判され、義賊なのだから捜査そのものを控えろと言われる始末。

だんだんとこの事件を担当したがる者はいなくなり、この事件を担当すると出世街道から落ちると評されるまでになった。もはや士気などまったくない。

今も食堂には重い空気が立ち込め、敵受け取り係と揶揄されることに慣れた警察にも堪えるものがあった。


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