I've got you−2
「えっ、ついに応利君が捜査責任者になったの?」
「まあな」
その夜、応利は緑谷と保須の飲み屋にいた。緑谷の事務所があるのと、応利のアパートがあるからだ。よく2人で飲むときに使う串カツの店である。
そこでいつものように飲みながら、応利は今日の異動の話を緑谷にした。緑谷も複雑そうな顔をしている。それはそうだ、この仕事はいわゆるスケープゴート、マスコミの責任追及に追われる職だ。
今まで応利は捜査チームにはいたが、いずれも副だったり係だったり主要なポジションではなかった。それが、今回責任者に大抜擢されたのはそれだけたらい回しにされてきたということだ。
警視庁本庁に務めている時点でかなりエリートではあるのだが、前時代的組織のここはいまだにこういうことがまかり通る。
「まぁ、もともと俺は警視庁の爪弾き者だし。来るべき時が来たってとこだろ」
「そんな…」
痛ましそうにする緑谷はまぎれもなく優しい。まさにヒーローだ。同じ雄英卒業の身として、活躍する緑谷の功績はよく知っているから、こうして応利に心を寄せる緑谷が本心から心配してくれているのだと分かる。
「…なんで、応利君が認められないんだ。正しいのは、全部応利君なのに…」
「…力がなきゃ、正しいことも間違いになるんだって、俺も思い知ったよ。いや、知ってたけど気づかないフリをして、ようやくそれを認めたってとこか」
「こんなのおかしい…!」
本気で憤る緑谷。握りしめるジョッキのガラスにひびが入っている。それにも気づかないのは、ひとえにそれだけ応利のために怒ってくれているからだ。
応利の過去をすべて知る幼馴染だからこそ、その怒りもひとしおなのだろう。
応利の母親は、警察によって殺されたと言っても過言ではない。応利が小さいころ、もともと父親のDVがひどかったのだが、その日は特に激しかった。製造業の会社だった父の勤め先がデータ改ざんがバレたことで倒産し、無職になった父の苛立ちが激しい暴力となった。母は応利を先に逃がし、応利は必死に交番に駆け込んだ。しかしそこでその巡査は応利の救けを求める声を軽く受け止めすぐ対処せず、結果、母は父による暴力で打ちどころが悪く亡くなった。
父は逮捕され、メディアはそのときの交番の対応を厳しく批判。そして、その巡査は自殺した。
誰もが不幸になってしまった。その事態を招いた警察という組織の膿がある限り、末端の巡査のような警察官だって可哀想なことになりかねない。
だから応利は雄英に入り、あえてヒーローにならずに警視庁に就職した。そこで組織を内側から変えようと決意していたのだ。
しかし向こうは、働き始めてから応利がかつての事件で生き残った子供だと知ったのか、しだいに風当たりを強くしていき、ちょうど上層部にとって都合の悪い提案ばかりする若手でもある応利を鬱陶しく思っていたようだった。
だから、能もあって雄英卒というキャリアもある応利をいつまでも低位につけていたのである。
その終着地点が、引責辞職待ったなしの厳しい役職である連続窃盗事件の責任者だ。応利もやるせないし、緑谷は非常に怒った。