正月太りは無関係−3


食後、煮込んでいたぜんざいを持ってくると、太志郎が首を傾げた。そんな様子に環も不思議そうにする。


「ぜんざい?」

「そうだけど」

「でも汁ないやん」

「え、汁ないのがぜんざいだろ?」

「え?」


東西の違い、再びである。
応利と環は、汁気のない粒あんの中に餅が沈むものを見て、特に違和感なくぜんざいだと思える。しかし太志郎はそうではないらしい。


「普通、ぜんざい言うたら粒あんの汁っぽいヤツやん。んで、おしるこがこしあん」

「え、関西って粒あんとこしあんで呼び分けてんの?」

「俺はそもそも呼び分けすら考えたことがなかった…」


そう厳密に呼び分けている人がどれくらいいるのかも分からないが、少なくとも広く関東では、汁気があるかないかで呼び分ける。汁のあるものがおしるこ、ないものがぜんざいだ。

しかし関西では、どちらも汁気があることが前提で、餡子によって呼び分けているようだ。


「じゃあこれはなんて言うわけ?」

「亀山やな。まぁ、金時言う人もおるけど、おしることぜんざいほど呼び分けてるわけやないな」

「へぇ〜」


関西では汁気のないものは総じて亀山ないし金時と呼ぶ。その違いはそれほど明瞭ではないようだが、粒あんの場合を亀山と呼ぶのはわりと確かなことだという。こしあんの汁気のないものが一応金時らしい。


「にしても、ぜんざいと漬物ってなんでこんな相性いいんだろうな」

「亀山な。それな、俺は塩昆布でもええで」

「ほんと、最初にぜんざいと漬物合わせたヤツすげぇな」

「ホンマやなぁ、亀山にしょっぱいモンがごっつ合うねんな」


たまに東西の文化的違いに基づく争いが起こる応利と太志郎。前はわらび餅に黒蜜をつけるか否かで熾烈な口論となった。関西のわらび餅には黒蜜がついていないことがほとんどで、どうやらきな粉の風味を損なうということだ。「きな粉の味だけじゃ味遠いだろ、薄味過ぎるわ!」と主張した応利は、3000万の関東民の気持ちを代弁していたはずだ。


「ホンマ東京モンは分かっとらんわ」

「はぁ〜?」


どうやら同じことを思い出したらしい太志郎は、ねちねちと蒸し返してきた。ちなみに、わらび餅問題は解決せず禍根を残している。


「なんでも味濃くすればええて思うとるやろ、醤油ぎょうさん使うて」

「関西は薄いんだよ何につけても。なんだよ白味噌って」

「いや関西人かて白味噌はそう使わへんわ、だいぶ個人差あるで味噌は」

「しかも出汁の味強すぎだし、風味って!」

「繊細な味が分からへんやろなガサツな関東人には」

「ガサツ〜?ハッ、関西人には言われたくない、33−4」

「なんでや阪神関係ないやろ!!」


バチバチと火花を散らす。まったく互いに悪口を言っているつもりはなく、単なる異文化交流だ。なので、応利は冗談で隣に座る環に抱き付いた。


「あんたとはやってけないわ。俺環君と結婚する」

「なっ、国際結婚て思えばええやんか!」


何を言ってるんだ、と思いつつ環の反応を伺うと、いつもなら驚いて肩が跳ねるのだが、今日はおとなしい。おや、と思って見上げると、環はぼう、としながら応利の顔を見下ろした。


「…そうだな、うん、結婚しよう応利さん」

「え、何言って、」


その途端、環はおもむろに応利の口に自らのそれを重ねた。触れ合うだけのかわいらしいキスだが、それを環にここでされるとは思ってもおらず、驚きでこちらが固まってしまう。


「……かわいい」

「え、ちょ、環君…?」


ふわりと笑う環は、普段のおどおどとした感じはなく、ただのイケメンと化している。いったい何が、と思って机を見ると、環の正面に応利が飲んでいた日本酒のコップが空になっていた。環が飲んでいたコップは少し離れたところにあり、大方間違えて飲んだのだろう。普通に急性アルコール中毒の恐れもある危ない事態にひやりとするが、同時に、ひんやりとした空気が正面からも醸し出された。


「何しとるんや環ィ…!」

「うるさい」

「っ、ええ度胸やないかゴラァ!」


ヤンキーよろしく、太志郎は突然そうキレるなり、テーブルを跨いで後ろから応利の首を強引に自身に向けた。「いて、」と言う暇もなく、応利の口が太志郎によって塞がれる。しかも、直後に舌が入ってきて、口内を暴れまわる。


「んん、ぅあっ、ちょ、」


さすがというか、大人の手管に応利も息を切らす。酒も入っているのだ、応利は力が抜けて環の体に凭れた。


「本当にかわいいな、応利さん…そんなデブじゃなくて俺と結婚しよう」

「お子様は引っ込んでよな?大人の男の本気見せたるで応利」

「…や……ほんと俺の選択肢……」


なぜ上司と高校生、しかも両方同性という二択なのか。理不尽な展開と危ない雰囲気に、取り急ぎ応利は気圧を下げて2人を気絶させることにした。まったく迷いはない。

顔の赤さも、きっと酒のせいだ、と応利は今でも思っている。


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