SS
1000文字未満のSS夢ダイゴ|チリ2023/07/14【熱帯夜に天ノ弱】
Character: チリ
「なぁ、もう寝た?」
電気を消しておやすみとベッドに入って数分、静まり返る寝室にチリの声が響く。わたしは仰向けの体勢のまま目も開けずに、眠気を隠さない声で「どうしたの」と返事をした。チリはごそごそと寝返りを打ってこちらに体を向け、「別に何もないけど」ちょっと不満気な声を上げた。
「恋人に対して冷たない?」
チリの手が伸びてきてわたしの腰を抱く。夏用の涼しい寝具のおかげで、触れた肌がやけに熱く感じる。今はまだ平気でも、このまま抱き着かれたら暑さに参ってしまいそうだ。わたしはチリの体を押しのけ「暑いってば」くるりと背中を向けた。
「せっかく彼女が泊まりに来てんのやで、もうちょっと相手したってや」
背中にじわりと熱が広がる。チリがわたしの身体にぴったりと体をくっつけていた。あつい。堪らずチリの手を引き剥がす。でもすぐにまた抱き着かれる。ついさっき長い髪のドライヤーで暑い暑いと言っていたのはチリの方なのに。
もう一度腕を解いてベッドの端へ逃げる。チリが泊まりに来てくれているけど、暑くてそういう気分じゃない。その筈、なんだけど。
「つれへんなぁ」
どうせ懲りずにくっつくんだろうと思っていたら、チリはため息を吐いただけで何もしてこなかった。何だか分からないけど気が済んだらしい。ほっと息を吐いて今度こそ寝ようと目を閉じる。
でも眠れない。さっきまであった眠気はどこかに消えてしまってる。そっと、首だけを動かす。チリはわたしに背中を向けていた。
「どうしたん?」
冷ややかな声で尋ねられる。わたしは背中から回した腕でチリをぎゅっと抱き締めて「クーラーが、寒くて」もごもごと下手くそな言い訳を呟いた。
「それはあかんなぁ」
チリが振り返る。暗い寝室だったけれど、チリのにんまり笑う顔は不思議とはっきりと見えた。
「チリちゃんがあっためたげる」
そう言ってチリが目を閉じる。わたしもまぶたを閉じたら唇が触れ合って、湿度の高い熱がわたし達を包んだ。2023/02/25【それでも愛して】
Character: チリ
時々、チリさんがひどく苦しい顔をすることがある。それはわたしの家でゆっくり寛いでいる時だったり、仕事の帰り道に隣を歩いている時だったり、或いは朝目が覚めて彼女がわたしに付けたキスマークを見つめる時だったりと、いつも何か幸せを感じた直後に顔が翳った。
「ごめんな」
決まってチリさんは謝るけれど、チリさんは謝るような事を何一つしていない。ソファに二人で腰掛けて話題の映画を見るのは楽しく、仕事帰りにコンビニでアイスを買うのだって嫌だと思った事もなく、体に散りばめられた赤い痕はわたしを興奮させることはあっても謝罪を求めようなんて一度も思ったことはない。それでもチリさんは見てるわたしまで胸が苦しくなるような辛い顔をして、謝罪の言葉を呟く。
「人に言えへん付き合いさせてごめんな」
繰り返すけれど、チリさんは謝るような事を何一つしていない。今わたしがチリさんと付き合っているのはわたし自身の意志、チリさんに強制された関係ではない。たしかに恋人がチリさんだと誰かに打ち明けたら好奇の目が向くかもしれない。でもそれ以上にこんなに素敵なチリさんと付き合っている事を羨ましがられるに決まってる。
「ほんま自分はええ子やな。ますます手放せへんわ」
ぎゅうっと抱きしめられると、ぴったりと触れ合った身体に自分のとは異なる鼓動が伝わってくる。ほんの少しテンポを速めた鼓動がどくんどくんとわたしの胸に響く。わたしの心臓もチリさんへの想いを乗せて強く拍動して、背中へ回す腕に一層力を込めた。2023/02/10【とけるまで】
Character: チリ
今日は待ちに待ったバレンタイン。けれど同時に明日も仕事のあるいつもの平日で。だから渡したチョコレートは簡単に中を確認したらさっさと冷蔵庫へ仕舞われて、その後は昨日と同じく各々する事をして各自のタイミングでベッドに入った。
もちろん明日の事を考えたらそれは間違ってない。でも同棲の新鮮さが失われややマンネリとした今、チョコを口実に少しくらいイチャイチャしてくれても良かったのに。チリはむしろ普段以上に素っ気なかった。
同じベッドの中、チリに背中を向けて体を丸める。腹が立って寂しくて苛々して胸が痛い。もうチリなんて知らないんだから。抱き枕を強く抱き締めてぎゅっと目を瞑る。
と、不意にチリに「ナマエ」と名前を呼ばれた。でもとっさに知らんぷりをする。早く寝ろと言ったのはチリなのだ、わたしは言われた通りにさっさと寝てやる。
「寝たフリせんとこっち向きいや」
ぐらぐらと肩を揺さぶられる。これじゃあ寝たくても眠れない。仕方なくチリの方に体を向けて、今さらわたしに構おうとする恋人に不機嫌な顔を見せた。
「チリちゃんからチョコ渡してないやろ?」
何を言うかと思ったら。今ここでチョコを渡されたって困るだけ――
「ふ、んぅっ」
目の前にチリの顔があって、ふわりと甘いチョコの香りが漂う。どこからだろう、意識が香りに向いた瞬間、唇が塞がれた。香りが濃くなる。
チリが音の少ない寝室にリップ音を響かせて唇が離れた。チョコの香りはまだ漂っている。
「どう?」
にやりと笑うチリの唇はつやつやと濡れていた。それに触れられた部分を撫でると、べたりとした何かが指に付く。キラキラしたラメの入ったグロスだ。鼻を近付けるとチョコレートの香りがした。チリに視線を戻す。
「食べ足りへんならおかわりしてもええんやで」
こんなの狡い。わたしは血色の良くなった唇に噛み付くようにキスをして、チョコの甘い香りを肺いっぱいに吸い込んだ。2023/02/08【バレバレ】
Character: チリ
付き合ってんのがバレんのが嫌なんは分かってる。でもだからっておっさん二人と同じチョコを渡すんはどうやねん。それやったら女の子の括りでポピーと同じのが良かったわ。
にしてもこんな義理チョコにも気を使ってナマエもえらい子や。量も手頃やし甘すぎずちょうど良い塩梅でセンスが光っとるやん。さすがナマエ、自慢の彼女やで。
「チリちゃん、それはベリベリしないんですのね」
「へっ?」
隣に座ってたポピーが指すんは包装紙。テープを綺麗に剥がして丁寧に折り畳んである。
「このまえの、おじちゃんのおかしはベリベリしてましたの」
「せ、せやったかなあ」
「そうですの!ポピー、あとでおえかきしたかったのにチリちゃんがベリベリしたからできなかったですもん」
「あっ、あれなぁ!だから今回は綺麗に剥がしたんやで」
完全に無意識やったわ。カモフラージュでも何でもナマエからの贈り物やと思ったら無意識にめっちゃ丁重に扱ってたわ。
「ポピーもじょうずにはがしましたの!」
「ホンマやなあ。じゃあ今日はそれ使ってお絵描きしたらええんちゃうかな」
さり気なさを装って折り畳んだ包装紙に手を置いて守る。悪いなポピー、これはチリちゃんのやねん。
「そうしますの。チリちゃんもいっしょにおえかきしてください」
「いやぁ〜悪いなポピー、チリちゃん忙しくて今から仕事やねん」
控え室には他にもまだ休憩してる奴がおるからポピーはそいつらに任せたらいい。とっとと控え室出てゆっくりナマエのチョコレートを堪能できる場所に移動したれ。
「べつにポピー、チリちゃんのチョコほしいなんていわないのに。チリちゃんたらおこさまなんだから!」2023/01/18【だって可愛いんだもん】
Character: チリ
時々、自分は適当に言葉を発しすぎじゃないかと思うことがある。
ちょうど今もそうで、評価シート記入の為に午前中の実技テストの録画映像を見ながら何度も「かわいい」を連発してしまっている。一緒に見ているチリちゃんがその度に不可解だと言わんばかりに眉を顰めているけど、普段あまり表情の変わらないアオキさんがバトル中に見せる表情の変化は少なからず可愛い成分を含んでいる。もちろんそれだけじゃないのは分かってるけど、でも可愛い部分を見付けたらついその言葉を言ってしまう。
「ポピーの事可愛い言うた口でアオキさんの事も可愛い言うんか」
大袈裟に顔をしかめるチリちゃんの口調は明らかにわたしを咎めている。確かに言いたい事は分かるんだけど、それがわたしの精一杯だから仕方なくて。なのに、
「言葉はな、ちゃんと使た方がええで」
少し残念そうに、憐れむようにわたしを見つめてぽん、と肩を叩いた。そう言うチリちゃんだって頻繁に「かわいーなぁ!」って言ってるくせに、自分の事を棚に上げてよく言えるものだ。
「じゃ、これ頼むわ」
そんなチリちゃんはいつの間にか書き上げていた挑戦者の評価シートをわたしに押し付けひらひらと手を振った。でもデータ入力は各自でするようにとつい先日トップが言ってたばかりだし、デスクには今日中にやっつけなきゃならない仕事が積んである。ここは毅然とした態度で断らなきゃ。
けれど「次の面接の準備があんねん、頼むわナマエ〜」チリちゃんが両手を合わせてあざとく小首を傾げる。普段はキリリとした眉をほんの少し下げて垂れ目がちの深紅の瞳を柔らかく細めて作る微笑みに、一体誰がノーと言えるのか。わたしはここでもまた「かわいい」と零して、入力作業を引き受けていた。
prev / nextInFinity