真実の愛を、カモメへ の内部事情から。 ※やや卑猥表現あり。







 荒々しく浴室に放り込まれると、服を着たまま頭からシャワーを浴びせられた。あたしは力が抜けてぺたりと床に座り込んでしまう。全身に付着していた血糊が緩やかにお湯に溶け、赤い液体と化して排水口へ流れ込んでいく。衣服は水気を含んでずっしりと重たくなっていた。

「……あの男にどこを触られた?」

 クロロは感情を落とした声であたしに問いかける。まるで、闇に解けるかのような暗い響きだった。

「キスはされたか?」
「され、た……。」

 戸惑いつつも正直に返答したら、親指の腹で乱暴に唇を拭われた。次いで強引に顔を上に向かされ、間髪入れずに唇を押し付けられる。詰問するようにクロロの舌が内部を貪ってくるので、たちまち酸素が枯渇しそうになった。飲み込みきれなかった唾液がだらし無くも口の端から垂れてくる。肩で息をして彼を視界に留めるが、その瞳は暗いままだった。
 ジャアジャア、と出しっ放しにされたお湯がタイル張りに当たり、狂い苛立ったように跳ねている。彼の声に怒気が孕んでいると気付いたのはこの時だった。

「立て。」

 そう無理やり立たされ、背中を壁に押し付けられた。彼にしては粗雑な動きで、血染めの衣服を順々に剥いていく。彼はあたしの肌をすっかり暴いてしまうと自分も同じようにした。均整の取れた美しい裸体が露わとなり、今更ながらに恥ずかしくなる。濡れた服を床に落とされると、ぺちゃりと虚しい音を立てた。

 信じられない。こんなぞんざいな扱いを受けるなんて。
 実にクロロらしくない。あんな粗末な男に嫉妬するなんて。

 その事実は間違いなく、あたしの世界を揺るがすほどの脅威に満ちていた。こんなに感情を動かされたのは、ナイフを突き立てられた時以来かもしれない。この狂おしい心臓は、あたしの存在を認めてくれたのか。

「……クロロ。」

 焼けつくように再び熱くなった目頭から、堪え切れなくなった涙がはらはらとこぼれ落ちた。歯止めのきかなくなったそれは、睫毛の先までしっとりと濡らして水滴と混じっていく。クロロは焦がすようにじっと視線を落とすと、その軌跡を辿るようにあたしの頬を舐めあげた。熱くて、苦しい感触だった。
 そして彼の節くれだった手によって、丹念に隅から隅まで調べ上げるように身体中を洗われると、内側からぞくぞくと細胞が波立つのを感じた。
 性急ではあったが肥大した彼自身を充てがわれ、内臓に向かってずぶりと突き刺される。久々の感覚であったのと、十分な潤いが足らずやや挿入時の痛みを伴ったものの、彼の存在を得た子宮が喜びに震えたのが分かった。
 まるでヴァージニティーに返ったみたい。じんわりと浮遊する意識の中で、そんなことを考えてみる。
 徐々に搬送する腰使いが速くなるにつれ、互いの息が乱れてゆく。共に終焉を迎えるためだ。

「戸愚呂……。」

 掠れた吐息を混じえて、彼はついに白濁を吐きだした。

 ◇

 ただ浴槽に浸かっているだけでは、する事は限られてくる。
 すぐに手持ち無沙汰となって、ちゃぽん、と両手でお湯をすくってみた。すっかり泡は消えてしまっていたので、何とも面白くない。
 クロロも同様のようで、暇をつぶすようにあたしの髪を弄っている。そして、思い出したように呟いた。

「悪かったな。」
「……ん? 何が?」
「ちゃんと避妊しなくて。」

 まさかそんな謝罪を受けるとは思わなかったので、単純に驚いてしまった。振り返ってクロロを見ると、彼は珍しく反省の色を示しているらしい。俯いて、あたしの首筋に顔を埋めている。盗賊のくせして根は真面目だったのか。それとも、単に男としての責務を放棄して罪悪感に浸りたくないだけか。何だって、いいんだけど。
 しかしクロロが危惧している理由もよく理解できる。余すことなく中に吐き出されたので、自分の周期と照らし合わせて考えてみても確かに怪しいことは否めない。
 だが、まるで構わなかったのだ。薄っぺらいスキンを介しての行為なんて、ただただ寂しいだけだし。

「ん、別にいいよ。 クロロの子供欲しいし。」
「……そうなのか?」

 クロロは一瞬ぴたりと止まり、年齢より幼く見える顔つきであたしを凝視した。
 あ、やっぱりこんな事言うと重いか。冗談ではなく本心だったので、もう取り消しようもないけれど。しかし、あたしはそんな突拍子もないことを言っているのだろうか。だって、アダムとイヴがいて、男女の凹凸があって、自分達だってこうして生まれてきたわけなのに。全ては本能って言葉で片付けられるんじゃないのかな。
 思いがけなかったのだろう。クロロは少し思考してから口を開いた。

「オレとお前の遺伝子の掛け合わせか……。 ぞっとするな。」
「そう? 案外、化学変化でも起こして真っ直ぐな子が生まれるかもよ。」

 子供なんて、縁起でもない。 なんて苦言を呈されるかと思っていたのに、クロロは何故か会話を続行させてくれた。
 彼の容姿を引き継げば、男女どちらでも可愛い顔をした子供が生まれるに違いない。きっと、可愛かったんだろうな。彼の幼少期を想像して、すこし笑ってしまった。

「んー、男の子がいいかな。 やっぱり。」
「いや、断然女がいいな。 お前によく似た。」
「えー、やだよ。 あたしに似た子なんて可愛くない。 絶対に癇癪持ちになるだろうし。」

 ……あー、なんだかこれって、まるで頭の悪い会話じゃない? まだ受精したかどうかも分からないっていうのに、こんな仮定の話するなんて馬鹿みたい。
 しかし、こんな会話にクロロが付き合ってくれるようになっただけかなりの大進歩だ。
 実際問題としては、色々と弊害を免れないんだろうけど。

「けど、もしもそんな事にでもなったらウチの両親絶対に怒り狂うな。」
「……だろうな。」

 苦笑しつつも、クロロはあたしに同意した。何に思いを巡らせているのかは知らないが、あたしは平凡な幸せを望まれているらしい。あたしとしては、結果よりも過程に重きを置きたいところなのだが、どうにも世界と上手く歯車が噛み合わないのが痛いところだ。

「でも、あたし絶対に大切に育てるよ。 間違ってもゴミ山になんか捨てたりしない。」

 そう伝えると、クロロはまじろぎもせずにあたしを見た。そして、およそあたし達には似合わないリップ音を響かせて口付けを交わすのだった。
愉快犯はカモメと踊る
true end
170621