日曜日の午後。
外は晴れているけど今日は今年1番の寒さだと今朝の天気予報では言っていた。
リビングのソファに座り、しばらく本棚に収まっていた小説の下巻を読んでいた。
内容は、孤島に暮らす灯台守の話だ。
彼が先ほど作ってくれたホットチョコレートを飲み、ページをめくろうとした時に親指のカサつきが気になった。
栞を挟んで本を閉じ、側に置いてあるハンドクリームに手を伸ばす。
寝室、リビング、バスルームと至る所にリップとハンドクリームを置いる私を彼は、いくつ手と口があるんですかと言っていた。
『あ…』
まだそんなに量が減っていないので、勢いよく出過ぎてしまった。
『早めに夕飯の買い物をしに行きますが、何か必要なものはありますか?』
ちょうど良いタイミングで彼がやってきたので、少しクリームを分けようと思った。
『建人さん、ちょっとこっちに来て手を出して』
『どうしました?』
隣に座った彼の手を取り、クリームを塗りこんでいく。
『出し過ぎたんですか』
『そう、戻せないし…勿体無いから』
『良い香りですね』
『ちょっと女性過ぎる?』
友人が誕生日にくれたハンドクリームの香りが気に入って、使い続けている。
『いえ、癒される香りです』
口角が薄らと上にあがる彼の顔を見て、嬉しくなる。
大きな彼の手全体に塗っていきマッサージもしてみた。
骨ばった指。握っていると安心する手だ。
『現代の人はね、マウスを一日中使ったりスマホをいじったりしてるから意外と親指らへんが凝るんだって』
先日行ったネイルサロンで仕上げにやってもらった時にそう言われた。
『前ほど、パソコンもスマートフォンも使わなくなりましたね』
『ほとんど五条さんからの電話だ』
『3回に1回くらいにしておきましょうか、出るのは』
フフっと笑い、彼の手を両手で包み込んだ。
『はい!出来た』
『ありがとうございます』
『買い物私も一緒に行く』
家を出て彼の手を握り、歩いた。
普段は腕を組んでいたけれど今日は何となく手を繋ぎたい。
指を絡めるとしっとりとしていて、いつもより滑らかに感じた。
『今度、海にでも行きましょうか』
『暖かい所がいいね、沖縄?』
『もう少し遠くの海へ』
『ヨーロッパ方面?』
『そうですね、南フランスあたりも綺麗でしょうけど』
見上げると彼は嬉しそうに空を見てる。
『もう少し近くのマレーシアやインドネシア辺りでも』
『お祖父様がデンマークだからそっち方面かと思った』
『意外でしたか?』
『うん。でも、行ってみたかった場所の一つだから楽しみ。帰ってきたくなくなっちゃうかもね』
『そしたら、家でも建てて暮らしましょうか』
『美味しいカフェやパン屋さん多いみたいだよ』
『それは楽しみですね』
他愛のない旅行の計画を話しながら歩く。
ヨーロッパの街並みも似合うだろうし
ラフな格好をして海辺を歩く姿もいいな、と想像してみた。
『あれ…?あそこにいる人って』
遠くからこちらを目掛けて手を振ってる長身の男性の姿が見えた。
彼が大きく長く、溜息をつくのが聞こえた。
『電話じゃなくて登場しちゃったね』
今夜の食卓は賑やかになりそう。