「よく眠れた?よかったらこれ、休憩の時に食べて」

朝早く、両親と共にクラウドの出発を見送った。
母は手製のランチボックスをクラウドに渡し、受け取ったクラウドは少し照れ臭そうにしていた。

「また頼むよ、クラウド」

父がそう言い、nameも小包を手渡した。

「道中、気を付けて」

「あぁ。必ずこれは届ける」

そう言って勢いよくバイクは駆け出して行った。

見えなくなってからも暫く見つめていると母が後ろから声を掛けてきた。

「クラウドは不器用だけど、心が優しいのね。パパみたいにお話上手な人も良いけれど、クラウドみたいにちゃんと話に耳を傾けてくれる人ママは好きよ」

「...うん、私も。」

きっと次に来るのは来月だろう。
早くその時になればいいのに、と思いながらnameはララと共に階段を上がって行った。



クラウドはヒーリンへと直行した。

バイクの音を聞きつけたのか、建物の中から見覚えのある赤毛が出てきた。

「お―クラウドどうしたんだ、と。」

「ルーファウス...に届け物だ」

そう短く伝えるとレノの横をするりと抜けて階段を上がり建物の中へと入った。

音を聞いてわかったのか、既にルーファウスが車椅子に座って待ち構える様にいた。

「クラウド、珍しいなお前から来るとは」

「届け物だ、アンタへ...」

そう言いかけてクラウドは言い直した。

「アンタの妹へ」

ローブを纏っているので表情は分からないが、僅かに顔が動いたのとほぼ同時に少し開いている奥のドア付近からカタンと小さく音がした。

目線だけそちらを見てすぐにルーファウスへと戻した。

「依頼人は誰だ?」

「...name」

「あぁ..」

名前を伝えると小さく鼻で笑い、それはまるで何かを思い出し懐かしんでいるかのようだった。

「確かに渡したからな」

そう言ってクラウドは入り口ドアへと向かった―

「何でも屋さん」

奥のドアから自分を呼ぶ声がした。

振り返ろうとしたが、クラウドは思い留まった。

「...ありがとう。彼女は―」

元気にしているのか。そう聞き返そうとしたのだろうか。
短く溜息を付きクラウドはそのまま振り返らずに言った。

「送りたいものがあるなら、連絡をくれ」

それだけを言い、建物から出た。


イリスは小包を受け取り、上に付けられている封筒を取った。
封蝋を開け手紙を取り出すと懐かしい香りがして
一瞬にしてあの時へと記憶が呼び戻された。


小包を頼んでから2ヶ月ほどが経過していた。

忙しいのかクラウドが来る気配はない。

いつものようにテラスで本を読みながら寛いでいると大きなバイクの音が遠くから聞こえてきた。

伏せていたララが耳を動かし顔を上げ、一吠えして部屋を出て行った。

後に続いて部屋を出て階段を下りていくと、喜んでいる両親の声が響いていた。

「name、クラウドが来てくれたわよ」

「うん...」

息を切らし階段を下りてきた娘を見て、両親は顔を見合わせ微笑み合いホールを後にした。

2か月前と同じ、2人と一匹が残された。

「...すまない、遅くなった」

会う約束などしていないのに、何故かクラウドは謝った。

「うん、でも約束はしてなかったし」

声が上ずり、喉が熱い。

「いろんなことが、あったんだ」

「うん」

少しずつ歩みを進め、目の前に立ったクラウドはきらりと光るガラス玉のネックレスを垂らした。
それは海沿いの街で売っている民芸品で、組紐を編み込み職人の手作りの丸いガラスが付けられているネックレスだった。
海に浮かぶ浮き球の様に見えるそのガラスは、深い深い深海の色を閉じ込めたようだった。

「きれい...誰からの届け物?」

「俺だ」

nameの手にのせてクラウドは続けた。

「もう、ライフストリーム濃度の心配もモンスターの心配もない」

「うん」

「海への道はどこも通れるようになった」

「うん」

「海でも、ヒーリンでも、どこでも...行きたいところへ行こうname」

「うん...」
多分、嬉し涙を流したのは人生で初めてかもしれない。
クラウドからのネックレスを受け取り、nameは両親へと言った。

「クラウドと海へ行ってくるね!!」

「お夕飯までには帰ってきてね」

返事を聞く前に勢いよく飛び出した娘を見て、母は笑った。

「ふふふ...!懐かしいわね」

「んー?」

新聞を広げながら父が言う。

「昔、“一緒に世界中を旅しないか”ってあなたの分かりづらかったプロポーズが」

「そうだったか...後でクラウドに新たなルートでの配達の相談をしよう」

「お腹すかせて帰って来るわね。何を作ろうかしら」



「バイクに乗るの初めて」

「これから慣れていくだろ」

これから―
これが最後ではなく、この先も続く。

「うん、色んな場所に行きたい」

「あぁ」

クラウドがエンジンをかける。

「今日の行先は?」

「海まで!」

nameの満面の笑みを見てつられてクラウドも笑った。
それは記憶の中にしまってある、懐かしい彼女のあの笑顔と重なった。


しっかりとクラウドの身体に両腕を回し、勢いよくフェンリルは走り出した。

入口からララの吠える声を背中に、潮風が香る方向へ向けて―。



In Love Again