「部屋は、ここを使ってね。お風呂はこの部屋にもあるし大浴場もあるけど..」
「いや、十分だ。ありがとう」
家族3人と使用人達が住まうこの屋敷の中には部屋が幾つもあり、クラウドの宿泊部屋はnameの隣だ。
徐々に日も落ち、夕焼けと紫色のグラデーションが美しく空を彩る。
見上げると一番星も見え始めていた。
「テラスからのこの景色、好きなんだ」
nameはそう言ってクラウドを案内した。
小高い丘にある屋敷からは、綺麗に整えられた庭園とその先にある岩壁と海も見える。
外の門から屋敷の入口までも結構な距離があったことをクラウドは思い返した。
「この辺りは、ライフストリームの影響はなかったのか?」
「少しはあったよ。ただ、ミッドガル付近ほどは」
ライフストリームが吹き出したとき、街の一部からも出たり掠ったりはあったものの被害はそこまでひどくなかった。
幸いなことにname達一家の住むこの丘付近は無事だった。
「海の方に行きたいんだけど..ライフストリームの濃度が高くて立ち入り禁止エリアがあったり、モンスターが増えてたりでなかなかね。」
そう言ってnameは遠くに見える海へ視線を向けた。
「星痕症候群...っていうのがミッドガルで流行してるって聞いた」
「あぁ。原因はまだ不明なんだが、他の地域より感染者は多い」
クラウドはヒーリンロッジに行った際に見た、かつての若きトップの姿を思い出した。
ローブから見えた手には黒い痣があり、それは星痕にかかっている事を示している。
そして、自分の腕もまた―。
「ねぇ、クラウド。依頼したら私を海まで連れて行ってくれる?」
問いかけに意識を呼び戻された。
「“いつか”って言葉は、好きじゃないの。果たされない約束みたいで。だから...」
言いかけてnameは止まった。
「あぁ」
クラウドはnameへと身体を向けてしっかりと頷いた。
「可能な限りの道で連れて行く。きっと...必ず。」
「うん」
丘を撫でていく風の中に、薄らと潮風も混ざっているように感じた。
◆
「久しぶりにあんなバイクに触ったよ。なかなか部品を手に入れるのも苦労したんじゃないか?」
電話をした整備士が気を利かせて明日朝に出発できるようにと、すぐに来てくれて先程までバイクを直していた。
部品が古くなってしまい交換時だったらしく、すぐに事なきを得た。
修理代はいつも危険な道を通り、配達をしてくれているお礼として父が払っていた。
報酬も貰い、宿泊までさせてもらってさすがにそれは気が引けるとクラウドが言ったところ
次はいつそうしてあげられるか分からないから、貰えるときに貰った方がいいと父は笑った。
そのまま気持ちの良い気候だからと夕食は庭に用意して外で食べた。
整備士スタッフ数人も一緒に加わり、久しぶりに賑やかな食卓となった。
「たくさん食べてね、ミートローフは好き?」
「あの辺りまで配達を頼むとしたら、道がまだ立ち入り禁止となっていて難しいだろうか」
母はクラウドにたくさんの料理を勧め、父は配達ルートの事を聞いていた。
自分から話すタイプではないであろうクラウドは、意外にも受け答えはシンプルながらもしっかりと分かりやすくしてくれる。
満面の笑みとは言えないけれど、時折控えめに笑うクラウドを見る日が来るとは思ってもみなかった。
「おやすみ、クラウド」
「あぁ。おやすみname」
それぞれの部屋の前で寝る前に言葉を交わし、中へ入ろうとした時、ララはクラウドの元へと行き撫でて欲しいと催促をした。
なかなかこちらへ戻って来ないピエラを見ていたらじっと見つめ返してくる。
「クラウドの側に居たいみたいだね」
「俺は構わないが..」
「じゃあ一晩居させてあげて。用心棒も兼ねて」
そう言うとクラウドはわかった、とほんの少し笑顔を見せた。
「良い子でね、ララ」
nameがそう言うと尻尾を軽く振り、クラウドと共に部屋へ入って行った。
自室へと戻り、明日持って行ってもらう小包を手に取った。
数か月前に父親がどの伝手からか、ルーファウス神羅が生きていたらしいと朝食の時に言った。
自分は何も言えず、母は短くそう―とだけ言った。
事実と真実と、色んな憶測が交差する中で遠く離れたこの場所にもライフストリームの影響でミッドガルが壊滅状態となり
中でも神羅ビルは爆撃によって大破したと聞いていた。
「誰かのせいにしていないと、皆気が保てないのかもしれないな」
見舞いの品でも送りたいが、と父は考え込んでいてどこの場所に今は居るのか調べたところ“ヒーリンロッジ”という昔神羅が社員用の避暑地として持っていた場所に居るらしいという事だった。
何故だかその時自分の中で彼女も一緒に生きているだろうという確信があった