「name―!なんでも屋さんがいらしたわよー」
テラスにて、サマーベッドで寛ぎながら本を読んでいると玄関ホールから母の声が聞こえた。
飲みかけのレモネードの氷が解けてカラン、と気持ちの良い音がした。
祖父の邸宅だったここへと引っ越して真っ先に体感したのは、気候が比較的いつも暖かい。
ミッドガルに居た時には味わうことが殆どなかった自然が豊かに感じられる場所でもあり、いつも長めのスカートやドレスを纏っていたあの時とは打って変わってここでは思い切り素肌を晒している。
通気性の良い麻の素材のショートパンツに、タンクトップ、足元はエスパドリーユ。
お茶会で履いていた靴やらドレスやら装飾品類はすべてウォークインクローゼットの中の展示物となっていた。
足元に居たサモエドのララが母の声に反応して一目散に部屋を出て行った。
ゆっくりと身体を起こし、軽く伸びをしてからnameもホールへと向かった。
長期の休みの度に訪れていた邸宅ではあったが、何度見ても外観も庭園も見事だと思う。
特にこの、玄関ホールへと延びる緩やかなカーブを描いた階段がお気に入りで
上を見上げると空を思わせる青を基調としたステンドグラスの窓から日差しが入り込む。
手摺は年季が入っているものの、細かな模様が施されそこに手をつけながら降りるのが好きだ。
高い天井から吊るされているペンデュラムの様な照明は、いぶした風合いの黒と艶を抑えた金色の百合の紋章が付けられている。
明かりが灯ると灯台のように光り輝く。
幾つかある出入り口のうちの一つでもあるメインホールの床は黒と白の大理石タイルが敷き詰められ、よく磨かれている。
降りかけて、ふと両親となんでも屋と呼ばれた男―正確にはデリバリーを生業としているクラウド・ストライフの会話に耳を傾けた。
「クラウド、ここまで来るのに休憩はしているの?遠いでしょう」
「軽く水分を補給して食べる位は」
母の質問に答えながらクラウドは先ほど飛び出して下に降りて行ったララを撫でていた。
ララは大人しくおすわりをして満足そうにしている。
「そうだったのね、よかったら夕飯食べていかない?」
「有り難い申し出だが...すぐに戻らないと夜中になってしまう」
「そんなにかかるのか?」
父が驚き尋ねた。
「本来ならそうでもないんだが..バイクの調子が悪くいつものようなスピードが出ないんだ」
「あぁ、それなら腕のいい整備士が居るから呼ぼう。明日までに届けなきゃいけないものはあるかな?」
「いや、今ここでピックアップするものだけだ」
「なら、泊って行けばいい!私たちの依頼の荷物は急ぎではないからな」
「そうよ、せっかくだしゆっくりして行って」
二人のもてなし好きに少し圧倒されていたクラウドだが、断る理由もないのかそのまま素直に招待を受けていた。
「name」
階段に居る自分に気づいた母が名前を呼んだ。
「あぁ、そうだクラウド。今回は娘の依頼もあるんだが良いかな?宛先は本人から聞いてくれ。じゃあ私は整備士に明日朝一に来てもらうように電話をしよう」
「夕食が出来るまで寛いでいてね」
二人はそれぞれに夕食の準備と、電話へと向かった。
クラウドの足元にぴったりとくっついていたララがやって来る。
広いホールに二人と一匹だけが残された。
「ご苦労様、クラウド」
「あぁ」
いつ見ても整った綺麗な顔立ちだと思う。
瞳の色は空と海を合わせたような色だ。
ミッドガルに居た頃はこんな風に再び会い、定期的に顔を合わせるようになるとは思ってもいなかった。
八番街のシアター付近で迎えの車を待っているほんの一瞬の時、持っていたバッグを取られた。
声を出すよりも早く、クラウドは逃げようとした犯人からバッグを奪い返した。
「治安が良いとは言い難い場所だから、気を付けたほうがいい」
そう言ってバッグを渡してきた。
ただ一度、それきりだったのに再びの巡り会わせで再会をした。
「依頼があると聞いたが、場所はどこだ?」
「うん、ヒーリンロッジへ」
場所の名前を口にした瞬間、クラウドの顔が一瞬険しくなったように見えた。
「...父親ではなく、nameが?」
小さく頷くと、クラウドから溜息が漏れた。
「無理ならいいの」
「いや、受けよう。ルーファウス宛か?」
頷こうとしたが正直に伝えた。
「...の、妹」
僅かに驚いたクラウドだったが、わかったと言った後それ以上は聞いてこなかった。
この絶妙な線引きが、いろんな人の信頼を受けて依頼が来るのだろうと思った。