長閑な田園風景が広がる道を歩いて行くと門が見えてきた。

門から屋敷へと向かう道は長く、色鮮やかな花畑が広がっている。

遠くから小さな子供の楽しそうな声が響いている。

ふと視線を感じその方向を見ると小さな男児が居た。

自分の覚えている限り、母親にそっくりな目元をしているとツォンは思った。

側へ行き目線を合わせて屈み声を掛けた。

「お母さんは、居るかな?」

上目づかいに少し困ったような顔をしつつも、小さく屋敷の方へと指を差した。

「あっち・・」

連れて行ってほしい事を伝えると、おもむろに手を握り引っ張って行ってくれた。

見た目以上に人懐こい子供なのかもしれないとツォンは思った。

暫く歩き屋敷へと着くと手を離し小さな女児と何かを作りながら屈んでいる女性の方へと走り出した。

「ママーーーー!おきゃくさんーー」

立ち上がり、駆け寄ってきた息子を抱き締め女性は自分の方へと向いた。

生成り色のワンピースに身を包み、髪があの頃より短くなっている。

一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。

ツォンは軽く会釈をして歩き出す。

「お久しぶりです」

「本当に・・」

母親の後ろに隠れてじっとこちらを見る娘は、父親にそっくりだった。

「ママちょっとお客さんとお話しするから、おじいちゃんとおばあちゃんのところに行ってて」

そう言うと双子は、はーいと言って元気よく遠くに居る老夫婦の方へと駆けだして行った。


テーブルへ着き、ツォンは持っていた花を渡した。

「紫のアネモネ・・」

nameは目を閉じて花の香りを吸い込んだ。

「毎年、誰かが送ってくるから不思議だったけど・・あなただったのね」

あの日―
nameに事を告げた日、テーブルの上に飾られたアネモネがやけに記憶に残っていた。

彼女を送り出してすぐに部屋へと戻り、彼女の物と思われる衣類や食器類諸々全てを箱に詰めた。

数日後、会社の命令によりセフィロスの部屋を整理するようにと言われた。
機密事項のファイルやパソコンのデータ、スマートフォンあらゆるものを削除するようにとのことだった。

幸い事前に彼女に関してのことは全て片付けておいたので知られることもなく、仕事一筋の英雄だったという新たな面が付け加えられた。

「女の一人や二人いてもおかしくないとは思ったがな」

報告に社長は首を掲げたものの、今回の件をもみ消す事とニブルヘイムの町を何事もなかったように再現することへ意識がすぐに向いたようだった。

清掃も入り部屋の中が全て変えられていく中で、枯れてしまったアネモネをツォンは見つめていた。


「すごく不思議だった。貰った連絡先には一切連絡していないのに荷物は届くし、毎年花は届くし・・」

「一応調査課に居るものですからね」

「どこにも隠れられないわね、世界中」

そう言ってnameは笑った。

沈黙の後、少し離れたところで遊ぶ双子に目をやった。

「男女の双子だったの。びっくりしたけど嬉しかった。娘は父親にそっくりね。気も強いし・・」

穏やかな時間が過ぎそろそろ日が暮れる頃ー。

「そろそろ行きます。元気そうでよかった。」

「少し離れたところにペンションがあるの、泊ってゆっくりすればいいのに」

「有り難いですが、調査に行かなくてはならず」

そう、とnameは言った。

「ミッドガルに疲れたら・・よかったらまた来て。新婚旅行でも」

「残念ながら、その予定がないですね」

「入れないようにしているだけじゃない?あなたのこと近くで見てる人が案外いるかもしれないのに」

楽しそうに言うnameを見てツォンは、どうか彼女に耳には何も入らないでほしいと思った。

これから自分が調査に行く場所の事

自分たちタークスが何を追っているのかも。

門まで送るという彼女と歩きながら、そういう事を忘れさせる風景が広がるこの場所ならば大丈夫な気もした。

門の所まで来るとnameが口を開いた。

「ありがとう、私とあの子たちの命を守ってくれて」

ツォンは頷いた。

「どうか気を付けて・・ちゃんと帰ってきてね、あなたは」

「また」

ツォンは短くそう告げて、古代種の神殿へと向けて立った。


屋敷へと戻り先ほどツォンから受け取ったアネモネを花瓶へと移した。

ミッドガルでの出会いがついこの間のように蘇る。

「パパのお花」

いつの間にか側に居た息子が話しかけてきた。

「そう、そうね。パパのお花ね」

nameは食卓へと花を飾り、夕食の準備を始めた。






ー今はいないあなたに紫のアネモネを
花言葉:あなたを信じて待つ



In Love Again