「紅茶、ぜんっぜんわかんねー...」

ふんわりと紅茶の良い香りが漂う店内で、ノクトは茶葉を選んでいた。

「イグニスにお土産?」

「いや...」

「聞かない方がいい?」

考え込んだノクトをみてシギルは、ハッと気が付いた。

「...ルナフレーナ様でしょ」

「えっ!?お前何で知ってる...」

プロンプトは少し離れた場所でシギルの姉に様々なチョコの試食を勧められ、その味に感動し写真を撮っている。

「私、親について行ったでしょ?中学三年間。テネブラエにも行ってね、ルナフレーナ様と一緒に過ごしたんだ。小さい頃のノクトの話もして喜んでたよ」

いつもルナフレーナとやり取りをしている手帳に自分と同じ年齢の女の子が両親の仕事の都合で来ている、と書かれていたことをノクトは思い出した。

シギルの事だったのだ。

「ルナフレーナ様は紅茶好きだもんね」

「あぁ..」

ノクトの顔を見ると俄かに恥ずかしそうにしている。

「ノクトが選んだ紅茶なら、きっとどれも嬉しいんじゃないかな」

そう伝えると、少し高い位置に置いてあった水色の花が描かれた缶を取りノクトは嬉しそうにしていた。

「サンキューな」

シギルは笑顔で頷き、ギフト用に包装をした。

―――――

「じゃあ、シギル。5時頃な、迎えに来るわ」

入口まで二人を見送ると、ノクトは確認をした。
先程の会話をしていた男子二人はまだ席で談笑をしている。

「残り1時間か...頑張ってね、シギル!今日はご馳走様〜すっごく美味しかった!」

チョコレートを土産にと渡されたプロンプトはかなり満喫した様子だった。

「うん、また後でね!二人ともありがとう」

店内へと戻ったシギルを見届け、二人は歩き出した。

「ねね、さっき撮ったシギル可愛くない?メイドっぽい制服ってなんかいいよね〜他のスタッフの子も可愛かったし...ってノクト?聞いてる?」

カメラのフォルダを見ながらプロンプトがそう言い振り返ると、スマホを見つめ考え込んでいるノクトが居た。

「わり、ちょっと電話するわ」

「え?あ、うん」

履歴をタップし相手先を押すとコール音が鳴り、すぐに相手は出た。

「もしもし、イグニス――」

―――――
時計を見るとあと少しで上がりの時間だった。

「シギル今日もありがとう、店内も落ち着いたし...ちょっと早いけど上がっていいからね。私も書類整理するからオフィスへ行くわ」

「うん、わかった。また連絡するね」

姉を見送り、乱れていた商品の整理整頓をしていると女性が色めき立つ声が聞こえてきた。

自動ドアが開き、男性客が店内へと入ってきたようで声掛けをしようと視線を向けるとそこには見慣れた顔があった。

「イグニス!」

休日という事もあってか白いシャツと黒のパンツという幾分ラフなスタイルでも店内で一際目立つのを見ると、改めてイグニスのスタイルの良さを実感する。

「シギル、そろそろ終わりの時間か?」

「うん、ちょうど上がるところだよ。ノクトの迎え?1時間前にお店出たけど...」

「いや、ノクトから電話があってシギルを迎えに行ってほしいと...」

「えー?一人でもノクトの家に行けるのに、わざわざごめん」

「いや、いいんだ。店内で待っている」

わかった、と伝えシギルは着替えるために奥へと向かった。

店内に並べられてる紅茶を見ながらイグニスは、何故ノクトが自分にシギルの迎えに行って欲しいと言って来たのか考えていた。

ふと、視線を感じ見やるとテラス席にほど近いテーブルに居る二人の男子が見ている。
ノクトやシギルと同じくらいだろうか、と気にも留めていなかったが視線はあまり好意的なものではない。

そうこうしていると着替え終えたシギルが出てきて、それと同時に先ほどの男子二人もテーブルから立ち上がった。

即座に状況を理解したイグニスは、シギルの方へと向かい持っていた荷物を受け取った。
ちらりと二人を見ると、落胆ともいえるような表情を浮かべていた。


「...?軽いから自分で持てるよ」

「いや、いいんだ」

「うん、じゃあ..ありがとう」

店を後にし、二人は車へと乗り込みノクトのマンションへと向かった。

比較的空いている道路を車が行き、イグニスが控え気味に聞いてきた。

「シギル、その...人様の家庭にあまり口出しするのも気が引けるのだが」

改まった口調なのでシギルは無言で頷き次の言葉を待った。

「何か、欲しいものでもあるのか?ウィンクルム夫妻はそんなに厳しくするようには見えないが...」

深刻な表情を浮かべるイグニスにシギルはどういうことだろうかと頭を巡らせた。

「アルバイトをしなくては買えないものが何かあるのか?ご両親には俺から言うのもおかしな話だろうから...何か力になれるなら...」

そこまで言われて納得し、シギルは吹き出してしまった。

「違う違う!あそこ、私の姉のお店なの。時々手伝っているんだよ」

「そうだったのか..」

安堵した表情を浮かべてイグニスも笑った。
どうやら、欲しいものがあるけれど両親に言えずにアルバイトをしている...と受け取っていたようだった。

「今やりたいこと、出来る事、色々やっておきたいんだ」

シギルはこの先の自分が進む道を決めているからこそ、目の前を思い切り楽しむと決めていた。

「そうか、それは良い事だな」

自分の後ろをいつもついて回っていたシギルの成長が伺えて、イグニスは嬉しさと少しの寂しさも感じた。

「うん..そういえばノクトもバイトしたいって言ってたよ。王子がバイトって大丈夫なのかな?」

「そうだな....」

イグニスは考え込み苦笑しながら言った。

「許されたとしても、側付である俺と護衛がついて回るのは避けられないだろうな」


「そっか、そうだね」

王子という立場があるのである程度の縛りがあるのは仕方ない事でもあるが、シギルはその中でもノクトが日々を思い切り楽しめるようにと願った。

「ねえイグニス。もしノクトがバイト始めたら私とプロンプトも監視しに行くよ!」

「それは心強いな」

車はマンションの駐車場へと着き、外には月と星が見え始めていた。



In Love Again