清正といい子
「いい子だね」と。清正がねねにそう褒められている姿を見るのは、特に珍しいものではない。そして、その度に清正は照れている。だがそれもまあ、珍しいことではない。
いい子であることって、そんなにいいことであるのだろうか。乙女は分からなかった。彼女はまだ年端も行かぬ少女だったが、感情の機敏に疎いところがあった。ただ清正は、そう言われていることに対して喜んでいる。彼が喜んでいるのだから、いいことなのだろう。それだけは、それとなく理解することができていた。
「清正」
武器の手入れをしている彼の頭上に向かって、乙女は声を掛けた。
「なんだ」
清正は手元から目を離すことなく返事をする。乙女は普段ねねが彼にそうしているように、手のひらを頭に乗せて、優しく撫でた。
「清正は、いい子だね」
清正ははっと顔を上げて、そこで初めて乙女を見つめる。
「……照れたり、しないの」
何も言えずにいる清正に対して、乙女は普段の清正とねねとのやり取りを思い出しながらそう言った。
「……いや」
乙女の表情は、常と変わらず仏頂面で、愛想の欠片もない。
「……お前のほうが、いい子だ」
手を下ろした乙女は、不思議そうにしている。清正は同じようにして、彼女の頭を撫でた。大人しく、彼女は清正の手のひらを受け入れている。
乙女は、両親を戦で亡くしていた。それをしたのは清正たちだ。哀れに思って引き取ったのだが、この娘はその事実を知らない。
いい子って、一体なんなのだろうか。清正もまた、先程までの乙女と同じように悩んでしまうのだった。

(20240702)
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