主君のためなら死ねる
「駄目だ、死んではならぬ!」

 孫権様に体を抱きかかえられている。ああ、臣下失格だな。朦朧とする意識の中で浮かぶのはそれだけだった。まさか間者が身近に紛れ込んでいたなんて。それも見抜けぬとは、酷い有様だ。けれども殿を守れて良かった。幼くして父を亡くした私を保護したのはこの方だったのだ。だから私はこの人の護衛に徹している。もう随分と昔の話だ。

「私を置いていくな……」

 殿ともあろう方が、そんな弱音を吐くものですか。もう軽口を言える余裕もない。最期に見るものが、貴方の悲しい顔だということだけが、心残りだった。君主と臣下だったけれど、貴方を兄のように慕えたことは、何よりも幸せだと思い、私は目を閉じた。
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