趙雲といけない子
乙女が外出から戻ると、趙雲は背を長椅子にもたれさせて眠っているようだった。外から降る暖かい日差しは、眠気を誘う。それにしても珍しいものだ。彼が無防備な姿を晒しているなんて。乙女はそんな趙雲の隣に腰掛ける。それでも一向に彼は目を覚まさずに、ゆっくりとただ規則正しい呼吸をしているのみである。
綺麗な顔だな。とっくにそんなことくらい分かっているはずだったが、こうして間近で見るとよりそう思う。いつも気を張り巡らしている彼の弱みを握ることができたような気がして、乙女はほくそ笑んだ。
その顔に、乙女は指を伸ばす。ふと、触れてみたいと思ったのだ。だがほんの少しの躊躇いの気持ちが、彼女の指を首元へと導く。それが間違いだとは気づかずに。
乙女の指が彼の喉に触れた刹那。ぱちりと目を覚ました趙雲は、彼女の手首を握ってにやりと笑った。
「いけない子だ」
何を。乙女が口に出すよりも早く、彼女は趙雲の手によって押し倒されていた。綺麗だと感じた顔が、すぐそこにある。
「龍のもつ八十一枚の鱗は、喉元にあるたった一枚だけ、逆を向いている」
趙雲はさも愉快そうにしている。それは、お見通しだったとでも言わんばかりに。
「私の逆鱗に触れたからには、覚悟してもらうほかあるまい」
逆鱗に触れるとは、このことをいうのか。怒りの感情など微塵もなく楽しげに笑う趙雲を見て、乙女はしてやられたとばかりに目を閉じた。

(20240702)
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