小次郎と悪い子
情けないなあ。乙女は足を引きずりながら小次郎の元に帰ろうとしていた。彼の言っていることはよく分からないが、強いひとだから一緒に戦えば何か掴めるのかもしれない。そんな考えで戦に赴いているのだが、とんだヘマをやってしまった。足に矢を受けてしまったのだ。矢尻に毒は塗られていないようだったし、とんでもなく痛かったが乙女は無理やり矢尻を抜いて包帯を巻いた。だが、小次郎は弱くて可哀想な人が嫌いだから、彼の元に戻ったら簡単に斬られてしまうかもしれないと思った。
「いけない子だねえ」
意外にも、小次郎は満身創痍な乙女を見てそう呟くだけだった。それに加えて、彼はなんと乙女の包帯を丁寧に巻き直してくれたのだった。乙女はそれが信じられなくて何度も小次郎の顔を見る。
「君は弱いし可哀想だけど、斬るのは惜しいと思うよ。それがどうしてなのかは、僕にも分からないけどね」
乙女が小次郎のことを分からないままに敬愛しているように。小次郎も彼女のことを、自らの流儀から外れていると分かっていながらもそれなりに可愛がっているということなのか。
乙女は、自分がちゃっかりと「弱い」「可哀想」などと言われたことなど全く気にならなかった。そんな言葉はとっくにかき消されていまからだ。彼が言う「斬るのが惜しい」という言葉は、どんな言葉にも勝る最高の褒め言葉なのだから。
(20240704)