周瑜といい子
夜遅くまで執務に勤しんでいた乙女は、やっと与えられていた仕事を終えた。この時間で周瑜の部屋に持っていくのはまずいだろうか。だが前を通るだけなら悪くはないはずだ。そう思って書簡を抱えながら暗い廊下を歩く。周瑜の仕事部屋を覗いてみると、そこには蝋燭の炎が煌めいていた。
「周瑜殿。夜分遅くに申し訳ございません」
周瑜は小さく、「構わない」と呟き乙女の書簡を受け取った。
この部屋を照らしているのは小さな蝋燭だけであるから、周瑜の表情ははっきりと読み取ることはできない。だが、それでも彼が疲れきっていることを乙女が読み取るのは容易なことであった。
「……どうか、したのか」
立ち去ろうとしない乙女を不審に思ったのか、周瑜は顔を上げて彼女を見た。
「君も疲れているだろうから、早く休んだほうがいい」
周瑜はいつだって優しい。だが乙女は、本当に自分が求めているのはそんな言葉ではないのだと思った。
「周瑜様こそ。無理をして倒れるなどということがあれば、私はどうすればよいのか……ですから。周瑜様もご自愛ください」
「君はもう、私がいなくとも十分やっていけるはずだ。……だが、その言葉は肝に銘じておくとしよう。君のようないい部下を持って私は幸せ者だ」
今の周瑜にとって、乙女は大勢いる部下の一人であるに過ぎない。
だが乙女は、ふと考えてしまうのだ。昔のように、「いい子だ」と言ってほしいのだと。部下ではなく、あなたに焦がれていた一人の少女として。あの頃に戻れぬと分かっていても、そう願わずにはいられないのだ。
(20240705)