鍾会と悪い子
どこかの文官が暗殺されたらしい。近頃の話題といえばそれで持ち切りだ。首を正確に一突きされて死んだ哀れな男。その男を殺めた人物を、本人のほかにはたった一人、鍾会だけが知っている。
「あれをやったのはお前だろう」
あれというだけで、この女には通じるはずだ。鍾会の予想通りに乙女はにっこりと口角を歪める。
「だって、鍾会様の邪魔になるだけでしょう? むしろ、一撃で死ねたことを誇りに思ってもらいたいくらい」
「言えている。あの男は私の踏み台にすらならなかったからな」
乙女は鍾会に心酔している。彼の為ならばどんなに手を汚すことも厭わないし、卑怯な手段を何度も用いて気に入らない人間を蹴落としてきた。鍾会はそんな乙女のことを、これほどまでに性根が腐っている人間などいないと思っている。もっとも、それは鍾会のためにしていることであるから、彼は咎めることもなく喜んでそれを受け入れているのだが。
「そのうち、あの男を殺したという阿呆な男がのこのこと自首してきますよ」
「それもお前が絡んでいるのだろう? 本当にお前は悪い女だな」
鍾会は毒づいた。後始末まで、彼女は一人でやってのけてしまう。その才には、自分が選ばれし人間であると何の疑いもなく生きている鍾会でさえ驚くものがあった。
「お褒めいただき光栄の極み。すべては鍾会様のためですからね。私という駒を、どうぞご自由にお使いください」
狂信者さながらの彼女は、鍾会を見つめてうっとりとしている。鍾会も無自覚ながら、そんな彼女に見惚れているのだった。

(20240705)
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