ダイゴさんに与えられる
「きみに贈り物があるんだ」
 そう言ってボクは彼女の瞳を見つめる。その黒曜石のような瞳は、ほんの一目見るだけでは分からない、危険な魅力を持っている。
 彼女の手を取り、小さな箱を乗せる。彼女はびくり、と肩を震わせた。この触れ合いだけでも恐怖を感じてしまうのであろう彼女は、決して抵抗しない。その姿を見ているとどうしようも無いほどの庇護欲に襲われてしまう。もしボクが居なければ、今ここに居るのがボクではなかったら……彼女はどうなってしまうのだろう。純粋な彼女は少し優しくされれば誰にでも着いていってしまいそうだ。
 開けてご覧、と促せば、彼女はゆっくりと指を伸ばして箱を開ける。中に入っているものを触り、感触を確かめた。それは彼女が普段使っているものと同じはずだ。
「これは……もしかして、」
 彼女はおずおずとボクに視線を向けようとする。その視線は僅かにずれていて、いつも……そう、いつもボクに悲哀の感情を産み落とす。
「きみに、ボクの瞳をプレゼントしたいんだ」
 彼女は目が見えない。その眼睛は人工のものだ。とはいってもガラスで作られたそれは美しく、彼女の美貌にさらなる拍車を掛けていると言っても過言では無い。虚ろげに見える表情は儚げな美しさを生んでいるのだ。
「あなたの、目の色なのね」
 そう、ボクが彼女に贈ったのは、ボクの瞳と同じ色をした義眼だった。
「ボクと同じ目になってくれたら、嬉しいなって」
 特注品のそれは、ボクの本物の瞳よりもキラキラと輝いている。まるでトクサネから見える海のように。
「ダイゴさんとお揃いだなんて、嬉しい」
 自分の色に染まって欲しいだなんて、そんなものは傲慢であること甚だしい。それなのに彼女は笑って喜び、受け入れる。清濁を知らず大切に育てたれ、生きてきた彼女は、ボクには眩しすぎるのかもしれない。彼女はこの世の中の汚れた部分を知らない。いや、知る必要もないけれど。それはボクだけで十分だ。
 ボクがきみと交際していることをよく思っていない人間が居ることも知っている。でもそんなの知ったこっちゃないね。皆が理解しなくとも、きみの美しさはボクだけが知っていればいいんだから。
 ボクは例え義眼であるとしても、洞窟に眠る石のような魅惑的なきみの瞳を手に入れたい。そして自分と同じ色を与えて、きみはボクのものだっていう優越感に浸りたい。
 きみの瞳を持ち歩いていれば、きみはずうっとボクしか映さないよね? ボクの瞳をきみが身につければ、ボクの世界をきみに見せることが出来るよね? そんなこと有り得ないって事ぐらい分かっている。でもきみを誰にも奪われたくないし、ボクからきみを引き離そうとする輩を遠ざけるためにも、きみへの愛を形として持っておきたいんだ。それがきみの大切な瞳ならば、きっと愛の証明になってくれるよね。
「グラエナとサーナイトも、きっと気に入るわ」
 目の見えない彼女が頼りにしている二匹のポケモン。彼らの助けを借りれば、きみはこの世界を自由に歩くことだって出来るはずだ。それなのにボクは自分の勝手な都合で彼女を縛り付けているのかもしれない。きみが不必要に出掛けることを禁じているのだって、きみから離れたくない、離したくないというボクの独善的な判断なのだ。こうでもしないと、いつの間にかきみは消えてしまいそうだから。
「喜んでくれて、嬉しいよ」
 ボクのこの仄暗い感情は、彼女には伝わっているのだろうか? 今のボクの表情さえも、彼女には分からない。それは悲しいことだが、この感情が伝わるくらいなら、今のままで十分だと思った。
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