師団を裏切った夢主とお相手反応集
 
鶴見
走れ。師団の兵から引っ手繰った馬を叱咤する。私は自身の意志で杉元さんやアシㇼパさんに着いていくと決めた。かつての自身の鶴見中尉への崇拝は病的なものと言っても良かった。けれども今はもう、違うのだ。早く二人と合流しなければ。そう思った矢先だった。銃声が鳴り響いたかと思うと乗っていた馬は暴れ、私は振り落とされてしまう。
「杉元たちと合流するつもりなのだろう? …全く悪い子だ」
 見上げれば鶴見中尉が目の前に立っていた。地面に叩きつけられた衝撃で頭がグラグラする。きっと中尉は私を殺すだろう。…しかし私のその思いは短絡的であった。
 再び耳をつんざくような音が襲ったかと思えば同時に経験したことのない苦しみが私を支配する。目線を下げれば左足の周りは血の海になっていた。
 鶴見中尉は冷ややかな目を私から離さずに、倒れる私の近くにしゃがみ込む。そして耳元に向けてこんなことを言うのだった。
「貴様は必ず私の元に帰ってくる。必ずな」
 その言葉が私に流れ込むと同時に、体全体に衝撃が走ったような不思議な感覚に襲われる。
 鶴見中尉に自分の過去をさらけ出したこと。それを受け止めてもらい、さらに愛を与えられたこと。頭の中で反芻する。今はもう中尉への信奉から抜け出したと、そう思っていたはずなのに。私は、中尉を愛していたのかもしれない。中尉が去ってから助けがくるまで、私は何も考えることが出来なかった。この先どうなってしまうのかも分からない。欠けた心は未だ、あの人に囚われたままだったのだ。

鯉登
「乙女。私たちを裏切るつもりなのか」
 人の気配がない部屋では、彼の声はよく通る。鯉登少尉のこんなにも悲痛で、それでいてこちらを威圧するような表情を見るのは始めてだった。それにしても、彼は優しい人だ。私が今彼に突きつけられている紙は、私が中央から潜入したスパイだという証拠なのだから。
「…鶴見中尉に言いつけるなり、ここで殺すなり、どうぞ好きなようにしてください」
 私の声は自分が思っているよりも震えていた。上辺だけの付き合いだと思っていたのは、私の心の上辺だけ。鯉登少尉に対しても、情が湧くのは当然だった。それだけに自分が情けなく惨めに思える。スパイに向いていないのは最初から明白だったというのに。
「私に、お前は殺せない…こんなことを言っているようでは、将として失格かもしれないだろう。しかし…お前を殺せるほど、薄情にはなれんのだ」
 鯉登少尉はこんなにも若く、戦争の経験すらないのに敵に対しては容赦なくその刃を振るう。私はそんな彼に惹かれてしまった。確かに死への恐怖がないわけではない。このまま中央に逃がされても任務を果たせていない以上私の生きる道はない。それならば、貴方のその刃で私を引き裂いてほしい。それが言えれば、どれほど幸せなのだろう。彼の歪んだ顔を前にしてこの身勝手な願いを言うなど、おこがましいにも程があるのだ。私と彼が釣り合わないことくらい、初めから分かっていたのに。

宇佐美
人目に映らないように路地を歩く。私はいわば脱走兵というもので、現在は鶴見中尉とは別のアプローチで金塊に迫る土方さんと行動を共にしている。どの陣営に居たとしても、必ずリスクは付きまとう。私は師団から抜け出せるのならばなんでも良かったのだ。ただ中尉の方針に着いていけなかっただけ。裏切りと言う行為を正当化するような言い訳を自分に言い聞かせる日々だった。
「おい、そこのオマエ」
 足早に歩いていたその時。通り過ぎようとした瞬間肩を強く掴まれ、くるりと体を反転させられる。宇佐美上等兵は瞳孔を開ききった目で私を見つめる。
「よく鶴見中尉を裏切ったものだよね? 今は土方の所に居るらしいじゃん。あれだけ鶴見中尉に優遇されてたのに、なんで逃げたわけ?」
 彼は思いのほか力が強く、振りほどこうにも肩を掴まれているだけで身動きが取れなかった。嫌な汗が吹き出る。
「鶴見中尉殿は裏切り者を許さないことぐらい知っているだろ? なあ、今ここで僕に殺されるか、中尉殿に殺されるか、選べよ」
 彼の息遣いが荒くなり、そのまま私は地面に押し倒される形になってしまう。首に手を当てられ、次第にその力を強めていく。自分で選べと言ったにも関わらず首を絞める彼の顔は今までに見たことがないほど恍惚としていた。
 本当は彼の一番になりたくて。でもなれないのは分かっているから、師団を裏切ったのだ。このまま殺してください。そうすれば、貴方の一番は私だという幻覚を見たまま死ねるから。

月島
 ある日、師団を脱走する事になった。それは同じ兵だったある男の誘いだった。駆け落ちしようと言われたのだった。その男のことを愛していたのか…今となってはもう分からない。目の前に立つ男、月島軍曹によって撃たれてしまったことを聞いても、当然の報いなのだろうとしか、思えないのだ。彼が本当は機密情報を横流しするスパイだったことも、私が今身動きが取れないように縛られていることも。全てが当然なのだ。
「本当にお前は何も知らなったのだろうな」
 月島軍曹は闇に染まった黒い目で銃を構えながら尋ねる。私は手足の震えを止められないまま、何度も、何度も頷く。かつての憧れだった月島軍曹のこんなにも恐ろしい姿を見るのは初めてだった。常に冷静さを欠かずに、忠実に任務を遂行する姿と、流されるままに行動した私。月島軍曹に着いていくと心に誓ったあの日がいつだったか。それすらももう、思い出せない。
「…お前はあの男に殉ずるのか」
 月島軍曹は銃を下ろし、ふと表情を弛めてそういった。部下に対する情というものが、この人には残っているのだろうか。私とはどこまでも正反対だ。私を愛するといったあの男の死を知った私が眉ひとつ動かさなかったことを、この人は知っているのだろうか。どこまでも正反対なのかもしれない。それでもこの人に対する忠義は本当だった。今はただ、私の過去の過ちを悔いる時間に浸りたい。この人ならば、許してくれるだろうか。
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