サイト開設半年記念 2分の1
「半分ずつね」と。私の家は貧しい上に、母との二人暮らしだったから、食事のときはずっとそう言われ続けて育っていた。
半分だけの粗末な食事だったのに、私はどんどん背丈が伸びた。母の身長もとうに抜かしてしまったし、私や母のことをバカにする近所の男たちは喧嘩を吹っ掛けてでも懲らしめてやった。
私はどうやら、女のわりに戦うことができるらしい。そう気づくまで時間は掛からなかった。食っていけるのならば、兵士になるのも構わないと思った。実際、私をバカにしていた人の中には食い扶持を求めて兵卒として戦うようになった人もいた。
母がいれば、貧しいながらも半分ずつの生活をして凌ぎ続けていたのだろう。だが母は病を得てから、あっという間に亡くなってしまった。
母のように、苦しんで亡くなるのは嫌だと思った。この世界から争いが消えれば、母のような人は減るのだろうか。
そう思った私は、仁義の人だという劉備様の元に士官した。もっとも直接彼の元で戦うのではなく、彼に仕えている趙雲様の指揮下に置かれることになったのだけれど。
劉備様も流浪の身であるから、決して裕福ということではない。それでも兵たちは皆生き生きとしていた。私にとってはそれでも母といたときよりも豪華な食事を摂ることができたから、そこは何とも思わなかった。
私は戦いの才がそれなりにあったようで、それからは趙雲様のようにはいかないけれど武功も立ててきた。体力もついたし、母といたころにはできなかった軍略の勉強もすることができた。
だが、それでも食べることというのは生死にもっとも直結しているのだ。いくら体力があっても、頭が良くても、食べ物がないと何もできないのだ。
今、趙雲様と私たちは、食べ物がない極限状態の中にある。
陣中には不穏な空気が立ち込めていた。兵糧が届かないのだ。腹が減っていては戦えない。このままでは総崩れになるだろう。
「趙雲様。兵たちの混乱は避けられないのでしょうか」
「……まさかこのようなことになるとはな。これは私の失態だ」
趙雲様はうなだれた。士気の低い兵を連れて出陣することなどできない。伝令の情報では兵糧は届くはずだったのだが、果たしていつになるというのか。
このまま餓死してしまうとでもいうのだろうか。戦の中で死ぬのならばまだしも、飢餓状態で死ぬのはもっと苦しいのだろうと思った。食べ物がない状態には慣れていたはずなのに、私ですら苦しいと感じ始めていた。趙雲様ならば尚更だろう。
そう思っていたとき、私たちが待ちわびていた兵糧の到着を知らせる声がした。
「乙女。どうやら私たちはまだ生きていられるようだ」
「……はい」
道中で敵兵に襲われてしまったらしく、届いた兵糧は当初よりも随分と少なかった。
飢餓状態で死んでしまうなどという不名誉なことは避けられそうだが、戦いにいくほどの体力が回復できるかどうかは分からない。趙雲様と私は兵達に食べ物を与える準備をして、さらなる兵糧をどうにか届けてもらえるように伝令を送ることにした。
兵たちの安堵する声が聞こえる。少ないとはいえ、彼らにはどうにか行き渡ったようだった。
趙雲様と私に残っていた分は僅かだった。兵たち一人あたりに分け与えた量くらいしか残っていない。
「私はこのような状況にも慣れていますから。趙雲様が召し上がってください」
本当のことをいうと、私も空腹で倒れそうだった。だが私よりも断然体格がよくて、立場もある趙雲様が食べるほうが良い気がした。伝令が滞りなくゆけばその時に私が食べれば済むだけだ。
「いいや。私だけ、というわけにはいかないだろう。お前も食べるべきだ……半分ずつ、共に食べよう」
半分ずつ。遠い昔に、よく聞いた言葉だ。
その言葉を聞いた瞬間に、私の脳裏には母の姿がぱあっと蘇ってきた。
もう聞くことはないと思っていたその言葉に、私は思わず泣いてしまいそうになる。
「……はい。半分ずつ、食べましょう。趙雲様」
母さん。私、これからも頑張るよ。
私は天に向かって祈った。趙雲様や劉備様と共にずっと戦いたい。願わくば、この世界が彼らの名のもとに統一されますように。
(20240609)