サイト開設半年記念 2分の1
「あなたが好きだ」と。姜維はかつてないほどに胸をばくばくとさせながら、告白されるなど微塵にも思っていなかったであろう彼女に告げる。

戦以外でこのように緊張することなど初めてだ。声は上ずっていないだろうか。顔が引きつってはいないだろうか。余計な事ばかりが浮かぶ。だが姜維は困ったように微笑む彼女を見て、これは脈がないのだと瞬時に悟った。

「私、他に好きなひとがいるの」

……諸葛亮様のことが、好きなんだ。

そう言って彼女は苦しそうに顔を歪めるものだから、姜維は思わずその頬に手を伸ばしそうになる。

「そう、なのか……」

丞相のことが好きとくれば、勝ち目はない。姜維はそう思いながらも、彼女のことを諦めることは出来ないと思った。

諦めるのにも、何かを捨てるのにも、勇気が必要なのだ。ただ思いを告げるだけならば、それは勇気ではなく蛮勇だ。未だ、思いすらも捨てる勇気というものを、姜維は持っていないのだった。

「でも、諸葛亮様にはきっぱりと否定されちゃった。……そりゃ、そうだよねって思うんだけどさ。それでも、諦められなくて」

丞相はきっと、その勇気を持っておられる。迷いなく捨てることができるのだ。そして彼女は自分と同じように、なにかを捨てる勇気は持ち合わせていない。それだから、自分も彼女もあの方には敵わないのだ。姜維は己の力がないことを噛み締めた。

だが彼はそのまま何も言えずに、立ち去ることもできずにいる。彼女にどう答えてやればよいのかが分からなかった。慰めも叱咤も、全て違うような気がしたのだ。彼女にそのような言葉を投げかけるなど、烏滸がましいにもほとがあるだろう。

「私だけは、あなたのことをずっと想っています。たとえあなたが、私の手に届かないところにいようとも」

姜維は迷いながらも口を開いた。

やはり、烏滸がましかっただろうか。姜維は彼女の言葉を聞くのが怖くて、目を逸らして俯いた。自分勝手な男のどうしようもない戯言だと。そう思ってくれても良かった。自分の告白よりも、丞相の告白を否定する声のほうが彼女にとっては価値があるものなのかもしれない。姜維は、どこまでも臆病な自身を自虐した。
だが返ってきた彼女の声色は、想像よりも優しいものだった。

「……ありがとう、姜維殿。私、きっと諸葛亮様を愛する気持ちのたった半分でもあなたのことを好きになっていれば……幸せになっていたのかもしれない。けれど、私……忘れられないと思うの。これからも、ずっと」

それでも、彼女の気持ちというものの矛先は変わることなく諸葛亮に向いている。

半分だけでもいいから、私のことを愛してくれないか。姜維はそんな言葉を喉元まで抱えこみながらも、それ以上を踏み込むことはできなかった。

その理由は、単純に恋敵が諸葛亮であるということだけではない。彼女が彼女として美しく輝いているのは、きっと諸葛亮を愛するがためだ。それに気づいてしまったから、姜維はもうこれ以上なにかを言うのは野暮だと思った。ただ、彼女がこれ以上苦しむところを見るのは嫌だとどこか他人事のように思った。

(20240607)
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