いちご畑まで
「またそんなに酒を呑んでいると、体に障るだろう」
そう言ってはいるものの、趙雲殿も随分と呑んでいるようだ。私は彼の言葉を無視して杯に酒を注ぐ。戦勝祝いの宴だというのに、そんなどさくさに紛れていきなり求婚してきた人がいたから本当に台無しだ。おいしいはずの酒の旨味が消えてしまうのが惜しくて一人でいたんだけど。趙雲殿に小言を言われるために逃げてきたんじゃなかったのに。
「私、難しいと分かっていても、自分が愛した人じゃないと、自分を愛してくれる人じゃないと結婚したくないんです。もう、うんざり。けれど、恋に落ちるっていうのも自分だとわかんなくて。どういう気持ちなんだろう。少なくともね、私に結婚してくれといった人に対してはそんな気持ち抱かないのよ、これからも」
ほとんど無意識に、私は愚痴を趙雲殿に話していた。酒のせいか私の舌はよく回る。呂律は回っていないかもしれなかったけれど趙雲殿はうんうんと聞いてくれている。
というか、なんで趙雲殿はこんなところにいるんだろう。どうせなら劉備殿たちと居るほうが……とか思っていたら急に視界が反転した。
「それならば、私と結婚すればいい」
押し倒されている。趙雲殿に。さあっと酔いが冷めていく私を見下ろして、趙雲殿は紅潮した顔を綻ばせている。不覚にも格好いいと思ってしまった途端、杯が倒れこぼれた酒が床を濡らした。
「私はずっと前からあなたに落とされているし……あなたを恋に落としてさし上げる程度の自信はある」
落ちる。いや、堕とされる。いつもならよく回るはずの私の舌が固まったまま動かないのは、既に恋を知ってしまったから、なのかもしれない。
(20240729)