呪いかもしれない
「……戦死したようだ」

司馬懿から、実の兄が死んだとの知らせを受けた乙女は、常と変わらぬ顔で佇むだけだった。眉一つ動かすこともなく、視線は手元の懐剣に向けられている。そこには血がべったりとついていて、剣を拭く布も赤黒く染まっていた。

「今更何をおっしゃいますか。私の肉親は仲達兄様ただ一人ですですから。あの男が死んでも、何の関係もありません」

陰気そうな声で呟く。これ以上その話を聞くつもりはないと訴えかけているようだった。

「……そうか。そうだったな」

司馬懿ですら詳しくは知らないことだったが、彼女は実の兄との間には瓦解することのない隔たりがあるらしい。血の繋がらない司馬懿を兄と呼び慕う彼女の様子は痛々しいものだと司馬懿は思う。

「ですから。私は今までのように務めを果たすだけです」

彼女は実の兄のことを、血も涙もない男だと評した。それならば彼女に血を浴びせ涙を奪うような仕事を与える己は一体何だというのだろう。司馬懿は答えのない問いに支配される恐怖から逃れるために、乙女の髪をくしゃりと撫でた。

(20240724)
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