鉄を齧ったみたいだ
「……げほっ……は、ぁ……」
乙女が咳き込めば、体の奥底から吐き出されたのは血の塊。体全体が傷ついているし、もう助からないのだろうなということは彼女本人がよく分かっている。なんと無様な姿だろうかと思った。
「乙女……」
意識が朦朧とする中で、乙女は鍾会の姿を見た。馬鹿にされるのだろうな、不甲斐ない部下で、迷惑ばかりかけていたな。でももうこれで終わるのだ。そう思って力を振り絞って鍾会の声がする方に顔を向ける。
鍾会は乙女の失態を罵ることもなく、ただ端正な顔を歪めて立っていた。
「は……っ鍾会、鍾会殿……ぅあ」
ぜえぜえと嫌な音がする。鍾会は「もう喋るな」と言って倒れ込む乙女の元に体を近づけた。なんでこんなに、悲しそうな顔をしているんだろう。なんでそんなに、優しい声で語るのだろう。乙女にはそれを尋ねるだけの体力は残っていなかった。
「……私は……いや、よそう」
鍾会は何かを言いたそうにしていたがすぐにそれを取りやめた。何がしたいのだろうかと乙女が思っていると、不意にかさついた唇に柔らかいものが押し当てられた。それは鍾会の唇だと、彼女はすぐに分かった。
「……不味い」
ほとんど触れるだけのものだったが、鍾会の唇も乙女のものと同じように赤く色が付いた。まるで紅をさしたみたいだ、と思って乙女はふ、と笑みを浮かべながら目を閉じた。鍾会が何かを言っているようだったが、上手く聞き取ることはできなかった。
(20240724)