年下の男の子
「……可愛い」
そう言ってから、陸遜ははっとしたように口元を手で抑えた。照れたようにして、「申し訳ございません」と言うものの、乙女は訝しげに陸遜を見る。
「……あのね、陸遜。本当は申し訳ないなんて、全く思っていないでしょう」
ずっと思っていたことだった。乙女と陸遜は所謂恋仲という関係にある。だが陸遜は自分のほうが年少である引け目を感じているのか、自分から積極的に行動を起こすことは少ない。初めて会った時から今までずっと敬語、敬称を使って彼は乙女に話しているし、愛情表現は専ら乙女のほうから示しているようだった。
だが乙女は知っているのだ。何となく隙を見せたくなって寝たふりをしていた時のこと。体をぺたぺたと触って頬を撫でながら、陸遜が「可愛い」と誰に聞かせるわけでもなく呟いていたのを知っている。彼の素の姿を覗き見たようで、乙女は目を瞑ったまま妙な背徳感に襲われたものだ。
だから、今のこれはきっと無意識のつもりなのだろう。酒を呑んでいるから、余計にそうなのかもしれない。
「……知っていましたか」
「知っているよ。本当は、もっと私に触れたいんでしょう。もっと自分の口から、愛の言葉を吐き出してみたいって、思ってるんでしょう」
乙女が陸遜の腕を引き、そのまま床に倒れ込む。そうすると、自然と陸遜が乙女を押し倒しているような形になった。
「……乙女殿」
湧き出る高揚感を隠しきれないといった表情をしているように、乙女には思えた。
「おいで、陸遜。私のこと、壊しちゃってもいいから」
ごくり、と陸遜が生唾を飲む音がはっきりと聞こえた。その瞳は獲物を狙う獣のように輝いていた。早く私を食べて。ひとつになりたいの。乙女がそう言うまでもなく、陸遜は彼女の頬に手を添え覆い被さるのだった。
(20240801)