アフタヌーン・ティー
三國と戦国が融合してから、長い時が経った。大蛇討伐を終え、人々は再び各地の復興にいそしんでいる。
その中で乙女は、郭嘉の健康状態と素行の悪さが妙に気になっていた。
人生は短い。乙女とてそれは分かっているし、ひとまずは平和の兆しが見えたのだから、好きに過ごしてもらいたいという気持ち自体はある。
だが、それにしては酒を呑み過ぎではないか。酒は百薬の長とはいえど、呑みすぎはやはり体の不調を招く。実際、戦いがないのだから良いだろうとして呑み過ぎた結果、二日酔いに苦しむ人の姿を乙女はつい最近も見たばかりだ。例えば、乙女と親しい左近などは調子に乗りすぎた翌日、頭が痛いなどといって一日中寝込んでいたのだ。
そういう訳で乙女は郭嘉にある提案をした。
酒ではなく茶を飲もうということである。中華にも茶を重んじる文化はあるが、乙女は日ノ本の人間である。ここは日ノ本なりの茶の湯で郭嘉をもてなそうという試みを乙女は考えた。
だが。
「うん。……これはいいね。一杯目は量が多くてぬるいものだったけど、二杯目は少し熱くなっている」
三成が秀吉に振る舞った三杯の茶。乙女は三成から無理矢理その技法を聞き出して密かに練習していた。抹茶を点てて飲む茶道とは異なるものだが、どうせならあの秀吉を唸らせた煎茶道で郭嘉を感心させてみようと思ったのである。
郭嘉はそれなりに楽しんでくれてはいる。いるのだが、乙女は彼が退屈しないだろうかという思いとは全く別の部分が気になっていた。
「あの……自分からお茶会しようだなんていって申し訳ないのですが、ちょっと近すぎでは……?」
狭い。とにかく、部屋が狭すぎるのである。全てを乙女に任せるのは悪いから部屋は用意するといった郭嘉の言葉を鵜呑みにしたのがいけなかった。
「そうかな? 貴女の可愛らしい姿を間近で見ることが出来るなんて、光栄だよ」
一体誰が入れ知恵したのか。宗茂あたりも狭い茶室を気に入って自分の屋敷に作ったなどという話があったから、その辺から情報が郭嘉に渡ったのかもしれない。
自由に振る舞う郭嘉を恨めしく思いながら、再び乙女は茶を入れる。その間も郭嘉は乙女を見つめているものだから、妙に緊張してしまう。
「……どうぞ」
三杯目。先程よりも小さな器に、熱い茶が注がれる。
「美味しいよ。こうしてゆっくりお茶を飲むのも悪くないね。秀吉公が心奪われた理由も分かる気がするよ。君が振舞ってくれたのだから尚更だ」
なんだか、自分が誘った割には郭嘉に良いようにされている気がする。ただ遊びたいだけだけじゃないんけどな、と乙女は思った。
「お酒だけじゃなくて、お茶もこんなに美味しいんですよ。お茶を飲んで健康的な生活を送りましょう、郭嘉殿」
茶だけではつまらないと思って持ってきた饅頭を頬張りながら、乙女は強引に結論付ける。本来の目的は郭嘉がもっと人生を長く楽しめる手助けをしたいということなのだ。別に、彼と二人きりで過ごす時間を増やしたいということではない。
「……ありがとう。酒宴も良いけど、君と二人でゆっくり過ごせるのだとしたら、茶会も悪くないね」
きっと頭の良い郭嘉は、乙女の思惑などお見通しなのだろう。その上で彼女と過ごす喜びを表している。
そんなことを言われたら、乙女も応じるほかあるまい。
「良かった。……また今度お茶会しましょう。政宗殿が最近ずんだ餅作りに没頭しているらしいのでおすそ分けしてもらえないか交渉してみますね」
今度はもう少し広い部屋が良いな。そんな思いとは裏腹に、頬が緩んでいる。
無自覚な彼女と対照的に郭嘉だけはそれを知っていて、面白そうに目を細めて笑うのだった。
(20240323)