がらんどう
乙女と小喬、そして大喬は昔から仲が良かった。乙女と可憐な姉妹の両親が昔馴染みだったからだ。姉妹は仲睦まじく過ごしていたが、乙女も本当のきょうだいであるかのようだった。乙女は三人の中では年長で、どちらかといえばしっかり者、大人びているようだとして周囲の大人たちに認識されていたが、二人といるときは少女らしい感性を覗かせていた。
乙女はそうして成長していた。
人間であるのだから、人を好きになるという瞬間が訪れるのは、至って当たり前だ。
それが自分の意思であれ、始まりは誰かの意志のもとであれ。それを知らぬ年頃はとっくに過ぎていた。
「周瑜さまっていうの。本当にかっこいいんだ」
小喬は嬉しそうにして、自らの夫になる人のことを乙女に語る。婚姻は秒読みというところだろう。会ったことのない人と結婚しろと言われて初めは複雑だったらしいが、実際に会ってみると人目見るなりこの人しか自分にはいないのだと確信した。小喬は夢見心地で話す。
「私も素敵な人に会えるかなあ」
率直にいえば、羨ましいというほかなかった。乙女がそういえば小喬はすかさず同意する。あたしが良い人に会えたんだから、会えるに決まってるでしょ。小喬はそう言ったが、乙女の本音はそこにはない。
昔はもっと、互いのことばかり話していた。周瑜と出会ってからの小喬は、彼のことばかりを話している。
寂しいのだろうか。それとも周瑜という人間に対する嫉妬だろうか。乙女は自分の気持ちを整理することができなかった。
「これを、小喬に」
小喬は誰もがそう思っていたように、無事に周瑜の元に嫁いだ。夫婦仲も良好であるらしい。乙女は彼女と菓子でも食べようかと二人が住んでいる屋敷を訪れたが、小喬はいなかった。
どうやら周瑜と二人で出かけているらしい。使用人に菓子を手渡す。本当は自分と二人で食べたかったものだが、いないのあれば意味がない。旦那様と二人で食べるように言ってほしいのだと乙女が伝えると、使用人は快く了承した。
予め、小喬に予定を聞いておけばよかった。どうやら焦っていたのかもしれない。二人が夫婦となってからというものの、全て誘いは乙女から持ちかけていた。だから、自分から動かなければ、彼女との繋がりが途絶えてしまうような気がしたのだ。
発散しきれない虚しさを抱えて、その日乙女は帰路に着いた。
それから、乙女の元にも縁談の誘いがきたのはこの日からそう遠くないことだった。
周瑜のように、「素敵な人」ではないのかもしれないと乙女は夫となるであろう人のことを知って思った。だが、この人とならば幸せにはなれるだろうという予感もあった。縁談を断るなどもってのほかだと思って、乙女はそれを了承した。それは小喬と会えない寂しさを埋めるかのようだった。
小喬が周瑜と結婚したように、乙女も結婚する。そうすれば小喬と周瑜が辿ったような道を歩いていくのは必然だった。
つまり、乙女も夫と過ごす時間が多くなったということだ。やがて小喬との繋がりは時を経ることに薄くなる。
だが、それからまた暫くして、今度は大喬が周瑜と義兄弟の契りを交わした孫策と結婚したのだという。
その頃にはもう、幼い頃のような交わりは彼女たち三人の間にはなかった。それなのに、小喬と大喬、孫策と周瑜は互いに切っても切れない絆が結びついている。
友情というものは、特に女の友情というものは、このように儚いものなのだろうか。
乙女はかつて小喬に贈ったものと同じ菓子を食べながらそう思った。その菓子を共に食べているのは、小喬ではなく隣に寄り添う愛しい夫だった。
(20240619)