かわいいひと
「月英様。あの服着るのやめちゃったんですか?」

「あの服とは、どの服のことでしょうか」

兵器の開発に勤しむ月英は、美しい才女だ。そんな彼女に憧れて乙女は彼女の兵器開発に同行している。近頃の月英は特に研究や開発に熱が入っているのか、軽装を好んでいる。乙女は月英が裾の長いヒラヒラとした布をはためかせている姿が好きだったから、何とはなしに尋ねた。

「ほら、あの……今みたいに全体がぴっちりしたものじゃなくて、もっとゆったりとした感じの服。着てましたよね。あれ、好きだったんです。月英様があんな服を着て勇ましく戦ってるのを想像して、とっても綺麗だろうなと思って」

月英の全てに憧れている乙女は、彼女の着ている服すら憧れの対象だ。月英はそんな彼女の言葉に少し笑ってしまう。可愛らしいが、あまりにも自分に興味を持っているのだ。悪用したりするつもりではないと分かっていつつも、流石に困ってしまう。

とは言いつつも月英は彼女には全ての情報を開示してしまっていた。最も、彼女のような奇特な人間は特段嫌いではないからだ。

「ああ、あの服のことですか。私は見ての通り、近頃は兵器の開発に夢中で……あまり裾が長い服だと、巻き込まれてしまうのです。体を動かすことも多いものですから。……そんなに私があの服を着ないことは、残念なことなのですか?」

乙女があまりにもしょんぼりとした様子を見せるものだから、月英は不思議に思う。服くらいどうってこともないだろうと彼女は思うのだが、乙女はどうやら違うらしい。彼女はもじもじとしつつ、意を決したように話した。

「もしあの服を着ないんだったら、私にください! 月英様に近づくために、服だけでも同じものを身につけたいんです!」

そういう彼女はやはり本気のようだ。月英は嬉しくもあり、なんだか恥ずかしくもあると思った。形だけでも同じものにしたいという気持ちは分からないでもない。月英も、身につけている衣服や装飾品の意匠に太陰対極図を取り入れる時があるが、それは諸葛亮とより夫婦であるという実感が湧くものだからだ。彼女は弟子のようなものであって、夫婦でも兄弟でもない。とはいえ弟子の願いを聞き入れないほど、彼女は心が狭いということでもない。

「そうですね……仕舞っておくくらいならば、全てあなたにあげましょうか」

「本当に!? ありがとう月英様! これで月英様みたいに、文武両道に近づけるかなあ」

服をあげると言っただけであるのに。嬉しそうに顔を綻ばせる彼女を見ていると、月英もやはり嬉しいものである。

もっとも、彼女か月英の英智を受け継ぐほど頭が良いのかどうかは悩みどころではあるのだが。少々お転婆な彼女の世話を焼くのも、彼女の楽しい仕事の一つであった。

(20240605)
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