光がなければ輝けない
乙女は、女子高生だった。だったとはいうが、卒業したわけでも、はたまた退学したというわけでもない。

ほとんど学校には行かなくなってしまったから、女子高生だったというのはあながち間違いでもないのかもしれない。だが彼女が女子高生だった、というのはそういうことを指しているのではない。

乙女は、なぜかは分からなかったが、学生生活とはほど遠い地に飛ばされていた。

南中、と呼ばれているらしいそこは、目に映る全てのものが初めて見るもので、乙女は自分が知らない間に死んでしまったのではないかと錯覚した。

所謂不登校、と一般的に呼ばれてしまう状態であった彼女は、その日、嫌々ながらも学校に行っていた。学校に行かなくなった理由はいじめといった酌量の余地があるようなものではなく、単純に一日ずる休みをしたのがずるずる延びていってしまったのが原因だった。

いじめではないというだけで、友達は少ないものだった。だから余計に休むという行為に対して抵抗もなかったのだ。

だがこの地にあるのは大きな木、よく分からない色をした植物、蛇や虎といった獣、そしてうだるような暑さ。

これが死後の世界というには、少し賑やかすぎやしないかと思ってしまったが、それでも夢だと言われたならば十分納得できるような光景だった。

しかしながら、夢にしては妙に視覚や触覚は現実味を帯びていると訴えてくる。

今まで学校を休んでしまった罰なのだろうか。乙女はそんなことを考えながら、制服のまま座り込んでいた。

そこをたまたま、この地を治める大王の妻だという女性、祝融に発見されたのだ。なんだかんだで彼女は、この南中で暮らしている。なんだかんだと言っても全てが一変した環境であるから、同性である祝融に、乙女は何かと助けられていた。

「珍しいね、アンタが地面に寝っ転がってるなてさ」

地面に転がって空を見上げていた乙女に、影が落ちてくる。

影の正体は祝融だった。彼女は不思議そうにして、乙女を見下ろしている。

「こういう日があってもいいかなって、思ったんです」

乙女は起き上がることもないままに喋った。祝融が姿勢を正して乙女の正面から顔を引くと、彼女の元には再び太陽の光がじりじりと迫ってきた。思わず乙女は顔をしかめたが、慣れというものなのだろうか。すぐになんでもないかのように、先程までと同じようにしてまた空を見た。

「最近のアンタ、いい感じだよ。蛇料理も食べるし……よく、笑うようになった。ここにきたばかりの時は、笑うどころかろくに喋りもしなかったのにさ」

できるならば、蛇料理はあまり食べたくはないが。乙女は苦笑いした。

それにしても、そんなに無愛想だったのだろうか。自分は。

確かに元いたところでもろくにコミュニケーションを取らなかったし、そのせいで学校に行かなくなってしまったという要素はあった。

自分は、ここでは上手く笑えているのだろうか。あまり自分では分からないものであったが、祝融がそう言っているのだから、そういうものであるのだろう。乙女は、祝融のことは深く考えずにその言葉を信じていた。いや、信じることができた。

不登校という状況は、大人たちにはあまりよく思われない。それは彼女が自分で引き起こしたものであるから、尚更だった。

ここは、何をしても乙女に文句をいう人はいなかった。その反動なのだろうか。信じることができるというのは。

自然を、大地を愛するという祝融達の思想。それは単純に、自然だと呼ぶことができる風景のことを指しているだけではなく、人としての自然さ、という部分も含まれているように乙女は感じた。

「こうしていても、誰も何も言わないじゃないですか。それが心地よくて。だから、自然と笑顔になれるのかもしれません」

どちらかというと潔癖なほうである乙女は、いつからかこうして直接地面の上に転がることを良しとするようになっていた。

自然とは何たるべきか。それを少しだけ、分かってきたのかもしれなかった。

「アタシらはさ、好きなようにして生きてる。でも、だからといって自然を蔑ろにしているワケじゃない。それは人に対しても同じさね。アンタが何をやっても、それは自由で、人として当たり前のことをしているだけさ。誰にもそれを止めることなんざできない。少しくらい道を離れても、寄り道しても、悪いことをしない限り誰にも咎めることはできやしない」

祝融のはっきりとした物言いは、今の乙女の心の中ににすっと入ってくる。

乙女は、学校教育そのものを否定して生きてきたと言えるほど、強い思想を持ってはいない。
だが、学校という閉鎖的な空間で教育を受けるということを選ばなかった自分に対する劣等感は少なからずあった。高等教育であるから、必ずしも学校に行かなければならないというわけではないのだが。それでもそのような気持ちを乙女は抱えていた。

だが、縛られずに生きるということの喜びを、祝融たちは教えてくれたような気がした。

「私、なんでここに自分がいるのかも、よく分かりませんけど……時間が許すならば。……ずっとここにいて、いいですか?」

その質問は、返ってくるであろう言葉を予測しているからこそ、できたものであった。

「当たり前さね! 乙女は、アタシらの家族なんだから」

祝融の笑顔は、太陽のようだった。自分はただ蕾だっただけ。太陽の光を受けて、咲くことができるのだろう。乙女は南中に咲く色とりどりの花を自分に重ね合わせた。

(20240629)
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