天使たちの呼び声
(origin設定)
見つめすぎたという自覚はあるので、張コウ殿から「どうしました?」と顔を向けられた際、特に動揺することなく言った。
「いやぁ、張コウ殿って何度見てもお綺麗ですよねぇ」
「あなたはいつも嬉しいことを言ってくれますね」
「毎日綺麗って言えるほど張コウ殿が凄いんですよ」
髪は一本に至るまで綺麗に黒に染まり、癖毛などなく真っ直ぐで、丹念に塗っているのか昼夜問わず彼の長い髪は良い香りを放つ。美を追求するだけあって肌は真珠のようになめらか。戦場に出てもこれが翳らないというのだから、もはや言葉もない。これに加えて更に凄いのは、美しさが容姿だけに留まらないことだ。張コウ殿はなんといっても所作が流麗であられる。この前、いただいたという花を剪定して瓶に挿すところを見たのだが、葉を切り落とすだけと言って決して千切ることをしないで専用の鋏を用いていたし、花を挿す時の柔らかな横顔は一瞬たおやかな女性を重ねてしまうほど。花だの美だのといった繊細なことにあまり重きを置かない武将が多い魏では、男性でありながら女性のような繊細さを兼ねる張コウ殿はやっぱり凄い人だと思う。
「主という贔屓目を取っぱらっても凄い方だと思いますよ私。親に送る文にはもっぱら張コウ殿のことしか書いてないです」
「それはそれは。あなたにそこまで言われては美に磨きがかかると言うもの。これからも傍で見ていてくださいね」
目を細めて微笑む顔に、ついうっとりする。
「ということは、これからも張コウ殿に美しいって言えるんですね。嬉しいです!」
「あなたは相変わらず私のことだけですね。ご自分の美しさにも目を向けなればなりませんよ」
「私ですか?うーん……。自分のことはあまり興味なくて……」
「――それはいけません!」
急に声を上げたかと思えば身を乗り出され、顔を近づけられる。突然のことに驚いて固まる私の頬に生暖かいものが広がった。それは優しく動く。
「磨けば眩い光を放つ宝玉であるというのに……」
張コウ殿の指であると理解したのは少し経ってからだった。なんで私張コウ殿に頬を撫でられているんだろう。あまりの出来事に放心するしかできなくて、何も言えない。
「あなたがご自分を大切にしないのなら、その分私が慈しんであげなければなりませんね」
自分が仕える主からは到底出てこないだろう言葉にはっと我に返る。
「慈しむだなんてそんなことっ……!張コウ殿がすることでもありませんよ。私ただの侍女ですし……」
「立場に関係なく、私があなたを大切にしたいと思うのですよ」
「張コウ、殿……」
今まで何ともなかった頬を撫でる感覚にぞわぞわし始め、気分が落ち着かなくなる。彼に見られて恥ずかしいと思ったのは初めてだ。見られたくないとも、触らないでほしいとも思ったのも初めてのことで、突然の心境の変化に内心困惑する。自ずと下がっていった顔が、自分のではない力によって上げられる。そこには目を逸らしたくなるほど整った彼の顔があった。
「今日は私があなたを甘やかすとしましょう」
困惑する頭が真っ白になるくらいには、甘やかなささやきだった。