蘭丸とあの娘
まるで女の子みたい。蘭丸は小さい頃からそう言われることが多かった。そういった声は成長期が来て背が伸びてからも時折挙げられる。不愉快であるということではなかったが、別にそこまで女の子らしいと自分では思ってはいない。声変わりを経ても若干高い声がそう思わせるのかもしれなかったが、蘭丸はれっきとした男である。高校の真新しい制服に袖を通せば、男子生徒としてそれなりに相応しい外見へと変化するし、蘭丸自身は自分の容姿にはあまり興味が湧かなかった。

そんなこんなで迎えた高校の入学式。張り出されたクラス名簿を見て、真っ先に自分の名前を見つけ出した蘭丸は足早に教室に向かった。この辺りの地域では頭が良いとされている学校だから、蘭丸はどんな人が同じクラスにいるのだろうかとどきどきした。

入学式とはいえ早くから来ている人そうではない人と、様々な人がいる。蘭丸は未だに誰も座っていない隣の席を見た。周りの生徒は早速初対面である者同士で喋っている様子も見受けられたが、蘭丸は緊張からかそういった気分にはなれなかった。左隣、窓際の席。せめて、ここに座ることになる人とだけは仲良くなりたいと思った。

だが待ち人というのは、なかなか来ないものだ。担任の先生らしき人が教室に入ってきた。今から体育館に移動して入学式を行う。そんなことを話している。いよいよ移動しなければいけないのだが、隣の席の人は来ない。どうしたのだろうと蘭丸が思っていると、前の入口から忙しなく歩いてきた少女が先生の目の前を突っ切ってやってきた。空いている席は蘭丸の隣の所しかなかったから、すぐに自分の席が分かったのだろう。彼女は急いで席に鞄を下ろした。

「ギリギリになっちゃった……あれ? 蘭丸くん?」

少女は蘭丸を見上げる。彼よりも背が低く、華奢な彼女。名前を知っているということは、知り合いだろうか。だが彼女のような人と知り合った覚えはない。蘭丸は混乱した。

きちんとした場所で話したいものだったが、移動しなければいけない。そんな状況に彼女も慌てて鞄の中から体育館で履き替える用の靴を取り出した。

「……もしかして、私のこと、誰だか分かってないでしょ。まあ仕方ないよね。とりあえず教室から出ないと」

「ああ、そう、ですね……」

蘭丸は軽快に歩く彼女の後ろ姿を追って教室から出る。どこか既視感はあったが、その正体はよく分からない。間違いなく自分が失礼なことをしているのだという自覚はあった。

「私、乙女だよ」

「……乙女……あっ!」

騒がしく歩く人の波に着いていきながら、会話を交わす。彼女が発したその中に、蘭丸はピンと来た。思わず大声を出しそうになって、思わず口元を手で覆った。

「どう? 思い出した?」

「……はい。はっきりと」

高校というものは、自由に受験して通うことができる場所だ。偶然の出会いに蘭丸はただ驚く。乙女は二人がほんの小さい頃、近所に住んでいた関係で仲良くしていた間柄だった。

……全く、気が付かなかった。蘭丸は彼女の姿を思い出す。その頃の乙女は髪も短く、その当時の服装も相まってか、「男の子みたいだ」とよく言われていたのだ。女の子のようと言われることの多い自身とは、よく比較の対象になったものだ。蘭丸ははっきりと記憶を甦らせることができた。

「……気づきませんでした。……その……本当に、可愛く……なりましたね」

その言葉が彼女にとって褒め言葉になるのかどうか分からなかったけれど。蘭丸はありのままを伝えた。本当に、彼女は可愛らしく成長していたのだ。当時も別に、男の子のようだと言われるというだけで蘭丸にとっては十分に可愛い女の子だったのだが。それを率直に伝えたのは初めてだった。

「蘭丸くんも、かっこいいよ。本当に、かっこよくなった」

恥じる様子など全くなくそう言い放つ乙女。蘭丸は、どこか自分の中にあった複雑な気持ちというものがすっと抜けていくような気がした。

女性は女性らしく、男性が男性らしく。そのような固定観念が通用する世の中ではないのかもしれないが、蘭丸は自分がはっきりと「かっこいい」と称されたのは、悪くない気分であり、それはむしろ嬉しく感じるものだった。

「まあ、私はずっと昔からかっこいいと思ってたけどね」

蘭丸は気恥しかったが、それでもやはり、彼女と再会できて良かったという気持ちに包まれながら、体育館に向かうのだった。

もっとも、この話をたまたま近くで聞いていた生徒により、「公然と互いの容姿を褒め合いイチャついている」のだとしてバカップル認定されてしまうのはまた後ほどの話である。

(20240709)
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