雪月花



昼から降り始めていた雪が、ようやく止んだようだった。

この時刻は短刀や脇差などは既に床に就き、その他の者もめいめい就寝の支度を終えて眠ろうとしている頃で、聞こえる音といえば部屋の隅に置かれた火鉢の中で墨が跳ねる音位のものである。
庭に積もった雪が周囲の音を吸い込んで、常よりも一層、邸内の静けさが増している様に感じられた。

明日の任務の最終確認を終えた蜻蛉切は、審神者の晩酌に付き合って、二人、雪見酒を楽しんでいた。
月明かりに照らされてぼんやりと淡く光る雪と、庭に実った南天が目に鮮やかだ。
傍らに座る審神者に視線をやれば、顔布に覆われていない口許が緩やかに弧を描いていた。


「…蜻蛉切。お前、私と一緒に、死んでくれるか?」

唐突に吐き出されたその言葉に、蜻蛉切は一瞬、何を言われたのかわからなかった。
蜻蛉切と審神者だけが居る部屋で、何の脈絡もなくかけられたその言葉に蜻蛉切は狼狽した。
酒気に充てられて、何やら恐ろしい幻聴を聞いたのかとも思った。

「…申し訳ありません、どうやら酔いが回ってきたようで。今一度お聞かせくださいますか」

戦場ですら、このように動悸が激しくなることはあるまい。
我知らず、蜻蛉切は生唾を飲み込んでいた。

「私と心中する気はあるかと、聞いた」

散歩に誘うかのような気軽さで、審神者はそう宣った。

「…は。この蜻蛉切、不肖ながら三名槍が一つという自負も有ります故、主に傷を負わせるような真似は……」
「そうじゃない」

顔布の奥で、審神者の目が細められる。蜻蛉切はますます狼狽した。
その動揺を見て取ったのか、審神者は緩慢な動作で蜻蛉切に向き直ると、再び口を開いた。

「なあ、蜻蛉切。私と、死んでくれるか?」

三度目にして、蜻蛉切はようやく、審神者の言わんとするところを解した。
――この方は、ああ。なんて回りくどい言い方をされるのだろう。

審神者は、そして、自分たち刀剣男士は、戦場に生きている。
今でこそ、蜻蛉切が「古参」と呼ばれるほどには本丸の人手も充足してきたが、彼が顕現したばかりの頃はまだ少数精鋭で、戦闘部隊も2隊を編成するのがやっとなほどだった。
それでも何とか遡行軍の侵攻を阻止できたのは、偏に審神者の指揮能力の高さと、当時顕現していた刀剣男士全員を一度に補修しても余りある膨大な神力ゆえだろう。
顔色一つ変えずに2部隊全員の補修を休むことなく行った彼女の背中を、彼は今でも覚えている。
とはいえ、いくら審神者の能力が優れていようともやはり数の力には抗いがたく、敵の侵攻を許してしまったことも、仲間を喪ったことさえあった。
蜻蛉切自身、破壊の危機に立ったことも1度や2度ではない。



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