夢の中ではお姫様


「んん……。」


「おや、起きたかい。体になにか違和感は?」


ふっと浮上した意識でぼんやりと目を開ければ、見えたのは真っ白の天井だった。

聞こえてきた声を頼りに首を回せばリカバリーガールがいた。大きく欠伸をしてゆっくりと重たい体を起こせばここが保健室であることがわかる。


「個性の使いすぎで体力がからっけつになったんだね。今は7限目の途中だよ。」


「バスからワープしたのかと思いました……。」


「そんな便利な個性があるかい。ここまで運んでくれた轟にはあとでお礼言っときな。」


のそのそと動いて足を下ろせば大きく伸びをした。していたのだが、リカバリーガールの言葉に伸ばしたはずの体がまた固まってしまった。


と、轟くんに運んでもらった……?


そういえば、寝てしまう前に窓に代わってなにかひんやりしたものに触れたような気はしていた。あれは轟くんだった……?


「今から戻るかい?それとも休んでおくかい?」


「あ、今から戻ります……すみません。」


「はいはい、次は気をつけるんだよ。」


リカバリーガールに見送られて保健室を後にする。授業中ということもあって、いつも以上に静かな廊下をとことこ歩いて教室に向かう。

今日の7限って、なんの授業だっけ。考えようとしても、すぐ轟くんに運んでもらったという事実が頭に浮かんでくる。

嬉しい反面、やっぱり恥ずかしい。轟くんは介護したくらいにしか思ってないかもしれないけど。でもどうせなら、意識のあるときにしてほしかった……かもしれない。


「すみません、戻りました。」


ガラリと教室の扉をあけたら、音に反応してみんながこっちを見ている。教卓にいるのはミッドナイト先生だった。


「もう大丈夫なの?とりあえず授業進めるから席についてね。ここまでの分は誰かにあとで聞いてちょうだい。」


席について黒板を見れば、どうやら今日は法律についての授業らしい。やばい、難しい範囲なのに3分の2も聞けてないなんて。

教科書とノートを取り出してがりがりと黒板を写していく。鉛筆を動かしている最中は余計なことを考えなくてすんだ。

ぐぅ、とお昼を食べていないせいで空腹を主張するお腹を戒めながら遅れを取り戻していく。

5限と6限の内容は梅雨ちゃんにでも教えてもらわなければ。






「名前ちゃん、もう体は大丈夫なの?」


「梅雨ちゃん!リカバリーガールいわく疲れ果てて寝てただけだって。」


「それならよかったわ。5限と6限の分のノート、よければ使って。」


差し出されたのは綺麗にまとめられたルーズリーフ。いつもはノートなのに、あえてルーズリーフということは、まさか私のためにわざわざ……?


感極まって梅雨ちゃんに抱きつけば、ケロケロ、と鳴いてちょっと照れてるみたいだ。どうしよう、可愛い。


「あっ、そうだ!」


はっと気付いて教室をぐるりと見回す。よかった、轟くんはまだいた。


「轟くん!!」


大声で呼んだせいでなんだなんだとクラスメイトの視線が注がれる。轟くんもあまりの大声にびっくりしたのか少しだけ肩が揺れたのを見逃さなかった。


「今日のお昼……運んでくれたって聞いて、あの、ありがとう。」


注目の的になっていることよりも、見ていないその状況を想像してしまって恥ずかしくなってしまって、どんどん言葉尻が小さくなっていった。

轟くんは合点がいったという顔だったし、クラスメイトもなんだそのことかとばかりに帰る準備をまた進め始めた。


「気にすんな。隣にいたから運んだだけだ。」


それだけ言うと轟くんは鞄を持ちあげた。すたすたとドアに向かっていく轟くんの背中は広くて、あの背中に担がれたのかと思うと一気に顔が赤くなった。


「轟くん大好き!また明日ね!」

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