個性は単純


結局昨日は保健室であれだけ寝たというのに、夜もぐっすりだった。それだけ疲れていたのかと思うと、自分の体力の無さにトレーニングを増やそうと決意した。

たくさん寝たはずなのに、午前中の授業は眠くて眠くて仕方なかった。何回か欠伸をしてしまって怒られてしまった。


4限終了のチャイムが鳴れば、目を輝かせた緑谷くんとお茶子ちゃんが左右を取り囲んでいた。


「名前ちゃん一緒にご飯食べよ!」


あまりの勢いにびっくりしたまま二つ返事で頷いた。断る理由もないし、なんかちゃっかり飯田くんと轟くんもいるから轟くんとご飯食べられるし……!


「苗字さんの個性ってあの糸みたいなのだけじゃないってほんと!?」


「轟くんとか瀬呂くんが言っとった!」


ぞろぞろと5人で食堂へと向かっていれば我慢できなかったらしい緑谷くんが口を開いた。おいおいおい、私のいない間にどれだけ話が飛躍したんだ……!


「違う違う!私の個性はテグスひとつだよ!」


大袈裟なほど腕をぶんぶんふって否定する。期待されてるところ申し訳ないけど、本当にたった一つなのだ。


「ただ、強度とか色とかは自由自在に変えられるんだけど……強度面はまだまだ鍛えなきゃなって思ったよ。」


指先からいつもの水色とは違う黄色のテグスを出してハリガネアートよろしく簡単なにこちゃんマークを作ってみせる。


「わけわかんねーうちに捕まったのはその色のせいだったのか。」


「む、なら俺や麗日くんが急に動けなくなったのも。」


「そうそう。透ちゃんみたいに自分が見えてないならやりようはいくらでもあったけど、私は見えちゃうから。透明のテグスで思い切り引っ張らせてもらいました!」


座席を確保して、ひとまずみんなお昼を買いに行く。今日はおうどんの気分だ。

それぞれがトレーを持って座席に戻る。私は角の席で、隣はお茶子ちゃんだ。向かいは轟くんでちょっとだけ緊張する。


「苗字さんの個性にそんな使い方があるなんて思わなかったや。」


「今まで水色しか見たことなかったもんなぁ。」


種明かしは既にしてしまったので、みんな納得してもぐもぐとご飯を食べている。ずっと水色を使っているのはそれだけ練習したからなにも考えずに使えるというだけなのだが、それが今回に関しては意表をつく結果になったようだ。


「でも実際透明なんて戦いながら見るのはほぼ不可能やよね。」


「そんなことないよ。強い光のもとではどうしても光っちゃうことあるし、切島くんみたいなタイプには歯がたたない強度しかまだ出せないし……。」


「個性に相性があるのはしかたねぇだろ。少なくとも俺はカラクリがわかったところでどう対処するのが一番いいのかわかんねぇな。」


「そうだよね……下手に攻撃して切島くんのときみたいにものを投げられても困るし、かといって遠距離攻撃が可能な個性相手に遠くから様子を伺うなんてもってのほかだし、そもそも攻撃しないと勝てないし……ならやっぱり身を潜めて一気に間合いを詰めてしまったほうがいいのか……」


ぶつぶつぶつぶつと緑谷くんが世界に入ってしまった。苦笑しながらずるずるとうどんを啜る。まさか自分がここまで分析されるとは思ってなかった。


「対策は実戦が一番!だと思うから手合わせして対策考えてくれてもいいんだよ?」


私の提案に全員がいっせいにこっちを向いた。あまりにも一致していてちょっと怖かった。


「なら今度頼みてぇ。」


「わ、私も!」


「もちろん!やろ!実戦デート!」


「ちげぇだろ。」


すかさずいれられたツッコミも聞こえないくらい嬉しかった。轟くんは強い。戦うことで私のレベルもあがる。それに二人で切磋琢磨したあとなら、お前以外と……みたいな展開も待ってるかもしれない。

残りのうどんを啜って、手を合わせる。いつやるかは決まらなかったけど、それまでには私もしっかりトレーニングを重ねなければ。

- 77 -


(戻る)