鬼を追う

「強くなったね。」

空を背にした○は言う。涼しげなその言葉が空から降ってきたのはもう何度目か…。地面に背中をつけた俺はチッと舌打ちをして、刃先が削れたブレードを手放した。

「…てめぇはバケモンか。」
「よく言われる。でも、リヴァイも強くなったじゃない。」
「…フンッ」

差し伸ばされた手を無視して立ち上がる。服がよごれっちまった。だが、仕方ない。この汚れは俺の力が足りない証拠だ。

○は女だが、○に敵う兵士はいないとされている。人並み外れた身体能力はこの俺でもかなわなかった。

俺は、この女を超えたかった。
その思いは、こいつに拾われた時からの願いだった。だが、その距離は縮まるどころか、年々遠のいてきやがる。


「リヴァイ。またあいつに負けたんだってな。」
「るせぇなチクショウ…。」
「はは。次の壁外調査までお互い死ぬなよ。」

エルヴィンは高みの見物ときてやがる。最初、○と訓練を行う前に、死ぬぞ、と警告をしてきた男だ。その時はその言葉の意味を知らなかったが、今なら分かる。

「一つ質問をしてもいいか?」
「なんだ。」
「リヴァイは何故○にこだわる?」
「…。」
「命の恩人を殺したいのか?」
「質問は一つじゃねぇのか。」
「すまない。何故○にこだわるんだ?あいつの力は桁外れだ。正直、お前でなくとも敵う人間はいないと思うが。」

目だけをこちらに向けて、リヴァイの答えに興味を持つエルヴィン。リヴァイはめんどくさそうに視線を明後日の方向へ向けた。

「答える気は無い。」
「それは残念だ。」

ふっ、と興味を無くしたようにエルヴィンは前へ視線を向ける。が、何かに注目した後にまたリヴァイに目を向けた。その瞳はどこか面白そうに輝いている。

「○だ。またあの男といる。」
「…っ。」
「心配するな。あの2人はそう言う関係では無い。」
「今日は随分とおしゃべりだな。気持ち悪りぃ野郎だ。」

リヴァイの反撃に確信をもったエルヴィンは、微かに笑う。それがますます面倒に思えてくるリヴァイは、○と挨拶をして別れた男を目で追った。

「やぁ、○」
「あ、お疲れ様です。団長」
「今日もリヴァイを殺し損ねたようだな。」
「逆ですよ。彼が私を殺しにくるんです。困った子です。」

クスクスと笑う○。見た目はただの女性だが、その力は鬼神の如く速く力強い。

「…」

○とエルヴィンが笑い合うと、リヴァイは居心地が悪くなった。
エルヴィンは、リヴァイほどの強さは無いが、聡明で統率力がある。彼と○の組み合わせは最強と言われていた。

その中に、まだリヴァイは入れない。
もし、その中に入ることができれば、○に認められれば、口にしても許される気がしたーーリヴァイにしか知らない、彼女への想いが。

「では、私は失礼するよ。」

他愛のない話を終えたエルヴィンは兵舎へ向かう。○は視線をリヴァイに向けると、笑った。
リヴァイは、自分があの路地裏で拾った時と何も変わらない。黙って鋭い瞳を向けてくる。感情は器用なほど一定で、クールに見えるのに、

「俺は、まだ諦めちゃいねぇからな。」

口を開けば熱い熱を言葉にする。○は、1度目を閉じて頬を掻いた。そして、困ったように、照れたように笑う。

「私より強く無いと、ダメだけどね?」
「分かってる。必ずお前を超えてみせる。」

あの時から、垣間見えるリヴァイからの想い。嬉しいような、困るような、恥ずかしいような…。まだその答えは胸にないが、いつか答えが出る気がする。

ーま、楽しみにしてるよ。

それだけ答えた○は、リヴァイの横を通り過ぎる。リヴァイはすれ違いざまに吹く風を感じながら、黙って自分の手を見た。豆だらけで血が滲んでいる。

「待ってろよ」

その手を再び握ると、訓練場へ足を向けた。


end

主がリヴァイより強く、ゴロツキリヴァイを拾った人、と言う設定でした。

1万ヒット祝いとして、人気アンケート第二位のリヴァイ夢を捧げます!


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