1.目を光らせる

俺は●が好きだった。そんなことを言葉にする柄じゃないし、俺は分かりにくいらしくリベルトたちにもバレてはいなかった。もちろん、当人にも。
だからか、俺一人、その場で傷つくことになった。

「私ね、恋人できたの。」

仲間たちが驚き、楽しみ、ひやかし、祝う中で、俺は止まったまま、頭が真っ白になった。

「ね!ニックス、聞いた?●に彼氏ができたんだって!」
「…、ん?…ああ。そうか。よかったな。」
「なに、どうしたの?」
「いや、なんでもない」

クロウに悟られる前に、アルコールを煽る。斜め前にいる●を見ると、幸せそうに笑って話していた。俺の心は氷のように冷たく冷めて、頭が真っ白になる。

相手は王の剣の新入りだった。あいつかぁ、とみんながうなづく中、俺はその話に乗れず、ただ喪失感を無理やりごまかす。お祝いにと、みんなで乾杯した時の俺の無表情ぶりは酷いもんだったが、みんなは●に注目していてそんなことに気づきもしなかった。

(…はぁ、クソ。)

失恋ってのは、いくつになっても辛いもんだな。夢を見ていたわけじゃないが、●との関係は悪くはなかった。俺の中では、二人きりの時はよく喋って構っていたんだが、●はそんな俺のことなんて気にもとめていなかったらしい。

「わりぃ、今日は先に帰る。」

札を置いて席を立つ。●が見せる笑顔やノロケ話を聞けるほど、心はタフじゃない。リベルトからブーイングされたが、背中を向けて店を出た。

嫉妬と虚しさを感じながら、店の階段を降りると、近くの路地裏から声がした。若い男の声で、女と話している。盗み聞きする気は無かったが、その声は●の恋人、ロイドの声で立ち止まった。

ー また連絡するからさ。
ー 酷い人。でも、待ってるから。今の子に飽きたら来てね。私、待ってるから。
ー ああ、じゃあな。

足音がこちらに向かってくる。俺は反射的に物陰に隠れて様子を伺った。路地裏から出てきた男は間違いなくロイドだった。そして、知らない女。
ロイドは女とキスをすると、俺が出て来た店の階段を上っていく。女はそれを見送ると立ち去った。

俺は女の顔を覚えてから、その場で待つ。嫌な予感がする。
少しすると、ロイドが●の肩を抱きながら店から出て来た。●は何も知らずに、嬉しそうに何かを話していた。ロイドはいかにも人の良さそうな顔で話を聞いてやっている。

「とんでもない野郎だな。」

俺の中で怒りの炎が揺らいでいた。俺はそっとその場から離れて、ロイドと別れた女を探した。

女の歩いた方に足早に向かうと、信号待ちをしているさっきの女がいた。女の周りには誰もいない。俺は近寄って話しかける。

「ちょっといいか。」
「え?な、なによ。」
「アンタ、さっきロイドといただろ。」
「それがなに?ロイドの知り合い?」
「教えて欲しいことがある。」

俺から出る威圧感に萎縮しながらも、女は俺の質問に答えてくれた。そして、知れば知るほど奴への怒りが沸き起こって来た。


◇◇◇◇◇
私はロイドに肩を抱かれながら歩いていた。さっきの飲み会であった面白かったことを話していると、ロイドは笑って聞いてくれる。

「ロイドは今まで仕事していたの?」
「ああ。訓練をしていてね。俺、まだ新入りだからさ。ちゃんと練習しないとみんなの足手まといになるだろ?」
「頑張り屋だね。」
「そうでもないさ。」

ロイドは真面目で努力家だ。疲れているはずなのに、こうして迎えに来てくれるし、本当に優しいと思う。女の一人歩きは危ないといって、家まで送ってくれるし…紳士だった。

「俺、早く会いたかったよ。」
「私もだよ。」
「…ちょっと、●のアパートに寄ってもいい?その、水もらいたくて。訓練したら喉乾いちゃってさ。」
「いいよ?」

私のアパートに着く。鍵を出して彼を中に入れようとしたら、待て!とニックスの声がした。
息を切らして私たちを、いや、ロイドをにらんでいた。

「ロイド、お前に話がある。少しいいか?」
「え?お、俺にですか?」
「安心しろ。お前次第ですぐに話はつく。」
「あ、ああ、ええ。いいですけど。」

ニックスの剣幕に押されるようにロイドはうなづいた。私は先に部屋に入るように言われて、ドアを閉めた。


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