8.ねだる瞳

思いを伝え合って、結ばれた帰り道。
私は隣を歩くニックスと手を繋いでいた。絡み合う指。たまに触れる肩先。…なんだか、うれしい。
ニックスは、いつもと変わらない顔で前を向いて歩いているけれど、私が彼を盗み見ていると目ざとく気づく。そして、

「なんだよ。」

と、どこか恥ずかしそうにくしゃっと笑った。その顔は、初めて見る。これが、ニックスの恋人としての顔なんだと思うと、特別な気持ちになる。
どこか優しいような甘酸っぱいような気持ちのまま、言葉少なく歩いていたけれど、歩きが遅くなる。そして、止まった。

ここが分岐点だ。右に行けば私のアパート。まっすぐ行けばニックスのアパート。どうするんだろうとニックスを見ると、ニックスも少しためらいがちに私を見る。お互い変に意識して、視線が合えば困ったように目をそらす。…何このシャイな二人っ。

「…ふ、はははっ。」
「…あははっ。」

お互い吹き出す。笑ったら無駄な力が抜けた。顔が緩む。二人とも悩んでいるところは同じで、なんだか面白いし、安心した。

「お前、どうする?」
「どうしようかな。」
「まさか、こんないい恋人を放って一人で帰っちまうのか?」
「持って帰る。」
「おいおいっ…積極的だな。」
「部屋に…来てくれる?」
「!」

頬を指で掻きながら、誘うとニックスから余裕が消える。そして、立て直すように私の手を握った。

「お前、割と積極的だな。」
「そう?」
「いや、最高だぜ。もてなしてくれよ。」

二人の足先が、右へ向かう。

◇◇◇◇◇◇
ニックスと部屋に入る。2度目だけれど、最初にニックスを部屋に呼んだ時とは全く違う。あの時の私は魂が抜けていて、隣に誰がいても同じだった。でも、今は違う。私の恋人として、ニックスがそばにいる。

テレビをつけて、飲み物を出して、並んで座っているんだけれど、全くテレビの内容が入ってこない。私はかなり緊張していた。
視界に映るニックスの腕は、凄く太くて硬くて、引き締まっている。インナー越しからも分かるけど、無駄な肉はなくて筋肉が綺麗に隆起しているのが分かる。…と、盗み見していると、肩に腕が回って来た。

肩を抱かれて、優しく引き寄せられる。私はそっと、ニックスの胸に体を傾けた。ごくり、とニックスの喉が鳴る。

「なぁ、もてなしはまだか?」

するり。ニックスの左手が腰に降りて、腰を撫でた。ビクッと反応すると、ニックスはテーブルのチャンネルを取ってテレビを消した。

挑発的に上下するニックスの手。くすぐったくて、思わず仰け反る私に、ニックスは誘われる。顔を私の首元に近づけて、両手で腰を撫でた。

「く、くすぐったいっ!…ひゃっ!」

ニックスは声を出した私を見て、口元だけ笑う。目は笑っていなくて、ギラギラしたニックスは体重をかけて私を押し倒す。

「●、もういいよな?ここまで来て待ったもお預けも、流石に無しだからな。」

熱を帯びる吐息に、私は顔を赤らめながらうなづいた。




ALICE+