あの大掃除の日以来、私は兵長から距離を置かれている。理由は全くわからないけど、あるとしたら私が居眠りをしていたせいだと思う。ちょっと眠くなって軽い気持ちで居眠りをしたことがそんなに気に障ったようで、椅子ごと蹴り飛ばされて目が覚めた。後でそのことについて謝ったのに、それ以降私を見たら立ち去る程に私を嫌がっている。

「ハァ…。」
「どうしたの?」
「なんか、兵長から避けられてるみたい。」
「ああ…なんだか、変よね。私から見ても兵長はあなたのこと避けてるなぁって思う。何かしたの?」
「掃除の日に居眠りをしちゃった。後で謝ったんだけど、4日経った今でも怒ってるみたい。はぁ…。」
「うーん、でも、変よね。そんなことで距離を取るような心の狭い人じゃないと思うんだけど…。あなたが気づかないだけで、他に何かしたんじゃないの?」
「えー…そうかなぁ、うーん。怖いけど本人に聞いてこよう。こんな気まずい関係が続くのも堪えるし…。」
「そうしなよ。」

仲間にポンと肩を叩かれて立ち上がる。怖いけど、こんなギスギスした関係も嫌だ。しっかり話したい。

ーーーー
あの予期せぬキスから4日が経ったが、俺はまだあいつの目を見ることができなかった。終わったこととはいえ、俺の中では衝撃的だった。思えば、あれが初めてのキスだ。他人は汚ねぇから、手を握ることも不快だ。ましてや、口なんて…重ねたくなったことなんて一度もない。

「…チッ。」
「兵長!」
「?!」

呼んでもねぇ○が俺に近づいてくる。はぁはぁと息を切らしながら、俺を見つめている。俺はその目から目をそらした。

「…何だ。さっさと要件を言え。」
「あの、気のせいじゃなければ、兵長からずっと避けられている気がするんですが、何故でしょうか? 」
「気のせいだ。」
「じゃあ、何で目をそらすんですか?」
「!…何だ、これで満足か?」
「そ、そんな、なんで、怒るんです?私が何かしたのなら、言ってください。ダメなところは直すように努力しますから。」
「…なら、掃除をしっかりしろ。それに、もう2度と掃除中に居眠りをするな。ロクなことがねぇ。」
「や、やっぱり、私寝てる間に何かあったんですよね?」
「!」
「それしか思い当たりません!」

くそ、こいつはあたまがキレるから困る。やり過ごせねぇし、言い逃れはできねぇ。ごまかしたところで、頑固なこいつは引き下がらないだろう。めんどくせぇ…。

「兵長、教えてください。モヤモヤします。」
「…お前、ちょっとこっちに来い。」
「あ、はい…?」

返事をしてのこのこと俺の前に立つこいつを見る。

「そんなに知りてぇなら、教えてやる。一度しかいわねぇからしっかり聞け。…お前はあの日だらしねぇ顔で居眠りをしていた。俺はお前を起こそう体を揺らしたら、お前が動いて、」
「?」
「…事故だが、…俺の唇とてめぇのが当たった。」
「…ん?…っ、そ、それは、…き、」
「言うな!気持ち悪りぃ。」
「!…ご、ごめんなさいっ。」

真っ赤な顔をしたそいつから俺は目をそらす。やつはしばらく黙り込んで、俯くと暗い声をだした。

「やだったんですね。相当。」
「…あ?」
「すみません。」
「…オイ、何でそんなに落ち込んでるんだよ。」
「…だって、そんなに嫌だったのかって…、はぁ、すみません。もう近寄らないので、大丈夫です。」

溜息を吐きながら、俺に背を向けて立ち去った。そして、その日以降やつも俺と目も合わせず、距離を取るようになった。



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