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汚い雨がポツポツ降ってきて、泥まみれのブーツに跳ね上がる。今の私はとても汚かった。雨でマントはびちゃびちゃだし、ブーツは泥で汚れきってる。靴下にも雨が染み込んでぐちゃぐちゃだ。

私が屋敷を飛び出したせいで、ずぶ濡れの愛馬は寒そうな瞳を私に向けている。その頬を撫でる私の手も冷たくて、ブルブルと彼女は震えた。

ー はぁ。

やりきれない思いがため息として宙に舞う。私は頼りない木下で鉛色の空を見上げては、結局何の力もない自分を感じていた。
父上、母上、執事、メイド、屋敷、馬車、宝石、お金、…それがなくなれば、私は地下街に座り込む浮浪者と何も変わりがない。

もう、いいのでは?
…?

知らない男の声が私の隣でする。流し目を向ければ、背の高い年上よ男がこちらを見ていた。緑のマントをかぶり、雨の中、私と同じように佇んでいる。

誰?
俺はエルヴィン・スミス。調査兵団の団長だ。屋敷から逃げた行方不明の令嬢を探すように、異例の命を受けて君を探しにきた。
……。

親バカの両親はパニックになって頼んだんだろう。…なぜ、調査兵団に娘探しの命令を。本当に、馬鹿げている。
その、過度な愛には期待も混じる。私が傷つかない、苦労しない生き方を提示したくて仕方ない。苦労は最低限に。幸せになれ、と。

だけど、そんなの息苦しい。帰宅もない派手な服を着せさせられ、欲しくもない見えばかりの宝石に彩られ、好みでもない男を紹介されて、やになった。

そろそろ戻ったほうがいい。雨も強さを増し、夜になる。それにここは治安が良くない。君のような上流階級の娘は狙われる。
……。
君は、屋敷の中でしか生きられない。

自力で生きる力をつけてから、また家出をすることだ。

いい捨てるように。エルヴィンという男は言った。そして、彼が手配していたのか、馬車が来て。私と彼を乗せ、大嫌いな屋敷に連れ戻していった。




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